第14話 悪役貴族の帰還ですよ

 ―――ジンが帰還する少し前。


 ジンと化け物が突然消えた事により、メアは呆然とその場に立ち尽くしていた。


「い、一体何が……今のは【転移】? しかしまだジン様はゲート無しの転移は出来ないはず……」


 口では今の現象を否定するも、現在ジンがいない事が何よりもれっきとした証拠だった。

 更には……


『ほう……あの歳で自分の空間に化け物を引き摺り込むとは……素晴らしい才能だな』

『それに魔力操作は完璧。どうやら彼は努力もできる様ですね〜』


 魔法を誰よりも理解している精霊すらも認めているのだ。

 そうなればメアも認めざるを得ない。

 しかしメアの心の中は決して穏やかではなかった。


(どうして私は気付かなかったのでしょう……ジン様が何をしようとしているのかも、どれ程の魔法が使えるのかも。それに自分の感情に任せて攻撃するなんて……。あの時はジン様を連れて逃げるべきだったのに。これではジン様のメイド失格です……)


 メアは血が出る程に唇を強く噛む。

 更に彼女の手はキツく握られており、血が滴り落ちている。


 そんなメアの姿を見て、周りの精霊達が必死に慰めているが、彼女には全く届いていなかった。

 

(私はこれからどうしたら……? ジン様の魔法を逆探知してその空間に割り込む? いえ、そんな事をすれば何が起こるかわかりません……一体どうすれば……)


 そんな彼女を思考の海から現実に戻したのは、先程ジンを評価していた上級精霊達だった。


『安心するのだエルフよ。あの小童こわっぱはあの程度の相手に遅れはとらん』

『そうですね〜控えめに言っても、軽く瞬殺できそうですしねぇ〜』

「……え? そこまでジン様はお強いのですか?」


 メアは驚いたように聞き返す。

 メア自身、周りの事を気にせず本気で戦えばあの化け物にも勝てる自信がある。

 しかし瞬殺するなど出来ないし、苦戦することは間違いないだろう。


 そんな強敵を自分よりも遥かに小さく経験の少ないジンが瞬殺出来ると言われたのだ。

 聞き返してしまうのも仕方のないことだろう。


『うむ。小童……とは言えんな。まずエルフよ、そなたの名は?』

「め、メアと申します」


 メアが緊張気味に声を発する。

 エルフは精霊を神のように崇めているので緊張するのは当たり前だ。

 しかしそんなメアに精霊が笑いながら言う。


『はっはっはっ!! そう固くならなくてもよい! ではメアよ、あの小童はジンと言ったか?』

「はい」

『うむ。メアの主人であるジンだが……あやつは既に我ら上級精霊並の力を有していると言っても過言では無いだろう』

「そ、そうなのですか……?」

『そうだ。あやつと我が本気で戦えば……我が負けるであろうな』

『私も絶対に勝てないわよ〜。余裕で勝てるなら〜精霊王様くらいだと思いますよ〜』


 火と水の上級精霊の言葉にメアは驚愕に目を見開く。


(そ、それ程の力をジン様が……一体いつの間に……やはり私に隠していたのですね……)


 驚きと、ジンに信用されていないと遠回し言われた様に感じて言葉を失っているメアに、火の上級精霊が豪快に笑いながら肩をバシバシ叩く。


『はっはっはっは!! そんな深刻な顔をするな! 男は誰しも秘密にしておきたいものがあるんだ! だから、我らはゆっくりか果実でも食べながら待っていようぞ!』

『あら、珍しく・・・良いこと言うわね〜』

『そうだろうそうだろう……ってお主、我を馬鹿にしておるだろう!?』

『あははは!! そんな訳ないじゃないですか〜』

『チッ―――くたばれ年増しババアが!!』

『あー! 禁句をいいましたね〜! 人間に負ける雑魚に言われたくありません〜〜!!』

『貴様もあの人間に負けるだろうが!! 口だけは達者だなババア!!』

『あーー!! また言いましたねっ!! もう許しませんよ!!』

『それはこっちのセリフだ!!』


 そんな人間味に溢れた2人の言い合いはヒートアップしていき、遂にはお互いに魔法を発動させようとする始末。


 しかしメアは五月蝿い上級精霊2人を視界にすら入れていなかった。 

 手を組んで目を瞑り、必死にジンの無事を祈っている。


(―――どうか早く帰って来てくださいジン様……後で幾らでも謝りますからッッ!!)


 元はと言えばメアが迂闊に攻撃を仕掛けたせいでジンを巻き込んでしまったのが原因だ。

 自分が責任を取る。


 そう誓った瞬間―――



「――――――どわああああああ!? 座標指定失敗したああああああ!!」




 空から叫び声を上げながらジンが降ってきた。







「―――無茶はしないでくださいっ!! 私がどれだけ心配したことか……いえ、元はと言えば私が感情に任せて特攻したのが悪いのですが……」

「い、いや……ごめんなさい」


 俺は言い訳をしようとしたが、メアの本気で怒っている顔をみて素直に謝る。


 俺は先程地面に直撃しそうになった所をメアに助けてもらい、こうして今説教を受けていた。

 確かに今回は色々と説明をふっ飛ばしすぎたので弁明の余地もない。

 

「はぁ……無事ならいいのですが……次からは出来るだけ心配掛けさせないでくださいね?」

「……本当にごめんなさい」

「いえ、元はと言えば私が悪いので、私も勝手な行動をして申し訳ありませんでした」


 メアがそう言って地に頭をつけようとするので、急いで……それはもう超高速で止める。


「い、いやいやぜんッ全然大丈夫だから! 俺は全く気にしてないから!! だから頭上げて!!」


 と言うか心配を掛けた俺が悪いんだから!

 それに推しに心配掛けるとかオタクの一生の恥!

 一体どう言った償いをすれば……死ぬか?

 いや、流石に死ぬのは嫌だし普通に怖いし、何よりメアに会えなくなるので却下。

 なら、


「……俺の本当の力を見たら安心してくれる?」

「はい?」

「いや、だから……俺の本当の力を見たら安心してくれる?」


 俺がそう言うと、メアは一瞬虚を突かれた様な表情をしたが、ふっと表情を緩めると少し嬉しそうに笑った。



「それで許しましょう。ですが―――もう隠し事はなしですよ、ジン様?」



 その笑顔は命が幾つあっても足りない程に美しく、破壊力があった。

 多分俺はこの笑顔を死んでも忘れないだろう。



————————————————————————————

 これにて少し早いですが第1章完結です。

 次話から第2章『ストーリー開始(学園入学)』が開始します。

 

 是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!!

 応援コメントは出来る限り読んで返信します。 


 今日は18時3分にもう1話投稿します!!


 

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