第10話 メイドとピクニックに行く様ですよ

「―――今日は魔法の修練は禁止です」

「何で!?」


 魔力を増やしてから更に1年が経ち、ようやく膨大な魔力を使いこなせるようになって色々な魔法の応用を覚えた頃。

 8歳になった俺が今日も魔法の修練をしようとしていた所で、突然メアから魔法禁止令が出た。


「そんな殺生な!! 俺から魔法を取ったら何が残ると言うんだ!?」

「……可愛らしい風貌?」

「はうはッッ!?」


 メアからの超高火力な攻撃を食らい、派手に吹き飛ぶ。


 め、メアが……俺を可愛いって……これは夢か?

 夢オチとかは絶対に止めて欲しい。


「―――ジン様?」

「うん? ……って近ああああああいッッ!!」


 や、止めろよ……お、オタクは推しの近くに寄ったらドキドキしすぎて呼吸が止まるんだよ!(そんな事無い)

 それに緊張して禄に話せなくなるんだから!(これは本当)


「そ、それでどうしていきなり魔法禁止令を出したんだ?」

「いえ、偶には息抜きに一緒にピクニックにでもどうかなと―――」

「―――何だよそれなら早く言えよしょうがないな今からすぐに支度してくるから30秒だけ待っていてくれ!!」


 俺は急いで服を着替えて顔を洗って髪を整える。

 既に俺の心は有頂天だった。


 やったあああああああ、メアとのデートだあああああああああ!!

 この2年、一度もデートらしい事をしていなかったが――遂に、遂に来たッッ!!

 ふっ……これからは俺の時代だぜ。


「さぁレッツゴー!!」

「……私が誘っているのに先に行ってどうするのですか」

「あっ……」


 は、恥ずかしい……。


 俺はその場で数十秒の間、羞恥に悶えるのだった。






「いやー久しぶりに家の外に出たなぁ」


 俺は緑豊かな舗装されていない道を歩きながら呟く。

 あたりを見回しても一面の緑。

 こう言った景色も乙なものだ。


「ジン様は魔法ばかりでちっとも外に出たがらなかったですからね」


 だって俺って悪役貴族だから何処から狙われているかも分からんし、普通にお外怖いじゃん。


 ゲームで我がディヴァインソード家は色々な悪事に手を付けていたらしい。

 そのため色んな方面から監視や暗殺が絶えないんだとか。

 と言うか実際に俺にもこの2年で2人くらい暗殺者が来た。

 まぁどっちも俺の張った結界を壊せなくて、その間にメアにボコボコにされたんだけどな。

 全く……自分で言うのも何だが、落ちこぼれの所に来て何の特があるのか……。


「無駄なことをするよなぁ……」

「はい?」

「いや何でも無い。それで……何時になったら着くんだ?」


 俺は俺の手を握って共に歩くメアに聞く。

 因みにメアの手は――(割愛)。


 既に家から出て2時間は経っているのだが、全くメアが止まる気配がない。

 まぁ体力はあるし、弱く【身体強化】も発動しているので疲れは全く感じていないのだが。

 

「後……30分程位で着きますよ。今日の目的地は『精霊の森』ですから」


 ふーん、精霊の森ねぇ…………精霊の森!?


「今日精霊の森に行くの!?」

「はい、そうですが……何かあるのですか?」


 メアは小首を傾げているが、転生者の俺からしたら大問題も大問題だ。

 何故なら精霊の森はこのゲーム世界【ブリリアント・プルーフ】のストーリーに関わってくる重要な場所だからである。

 

 此処は名前の通り精霊が沢山住んでいる大陸一広い森で、精霊の他にも様々な魔物やエルフ、ダークエルフなどが住んでいる。

 因みにメアもこの森出身だ。

 詳しい理由は知らないが、その村の掟が嫌で飛び出してきたんだとか。

 今のクールな姿からは考えられない行動だよな。


 そしてストーリーの序盤、学園に入って2ヶ月後位に野外実習的なものがあるのだが、その舞台が此処――精霊の森なのだ。

 確かその実習中に、精霊の加護がある主人公が精霊に頼まれてとある魔物と戦うのだが……普通に強い。

 この世界にはゲームにあったステータスもレベルもないのだが、強さはレベルMAXが100であるこのゲームでレベル35。


 序盤でレベル35とか普通に強すぎだろ。

 まぁ最後は精霊の加護が覚醒して倒すんだが。

 

 兎に角この森はストーリーにめためた関わるため、出来ればあまり近寄りたくなかったのだが―――


「久しぶりの帰省です。森はどのくらい変わっているのでしょうねジン様」

「あ、ああ……多分そんなに変わってないんじゃないか……な?」

「そうだといいですけどね……もう50年は帰ってないので少し楽しみです」


 ―――そう言って珍しく顔を綻ばせるメアを見たらさ、断れるわけ無いじゃん!?

 俺には推しを悲しませることなんて絶対に無理だよ!?


「……覚悟を決めよう。大丈夫……こっちにはメアがついてる。それに最低俺もメアの肉壁を遂行出来るくらいまで強くはなった筈だ。きっと大丈夫……」


 そう、きっと大丈夫だ。

 このゲームの全エンド攻略者を舐めんじゃねぇ。


 俺は楽しそうなメアの横で覚悟を決めた。


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