第7話 兄にわざと負けるらしいですよ

 お互いに剣を持って相対する。

 しかし年齢差で身長の差が、それはそれは凄い。

 多分普通に40cmくらい差がありそうなんだが……超絶不利なんですが?


「準備はいいかジン? あっジンは禄に剣も振れないから準備なんて要らないか」

「う、五月蝿い! 今日こそは絶対に勝ってやる!!」


 まぁ嘘なんですけど。

 そもそも俺はこのサイコパスとの対戦を本気でする気など毛頭ない。

 どうせいきなり勝ったら俺に注目が集まるので魔法を修練する上で邪魔にしかならないからな。


 弟に接待プレイされて喜んでるんだなばーか!


 と言う事で今回の目標はダメージを受けずに負ける、だ。

 使える魔法と言えば無属性魔法の【身体強化】系だろうか?

 一応一回使ってみたことはあるが、物凄かった。

 何が凄いって、自分の体じゃないみたいに自分の思い描いた通りの動きが殆どタイムラグ無しで繰り出せるのだ。

 今回はこれでどうにかしてダメージを受けないようにしていこうと思う。

 

「それじゃあいつでも良いぞ雑魚! 先手はお前に譲ってやるよ!」


 そう言って剣を肩にトントンするベン。

 うーん、三下感が否めない。

 これって俺が攻撃したら一瞬で気絶するやつではないだろうか?

 ……身体強化は解いておくか……。


 俺は身体強化を解いた後でベン目掛けて走り出す。

 やっぱり体は鍛えられているので結構足は速い。

 

「はあああああああくたばれええええ!!(絶対に気絶するなよ!? したら俺がお前を許さないからな!!)」


 俺は5割位の力で剣を振り下ろす。

 

「ふっ、所詮この程度か! やっぱり落ちこぼれは落ちこぼれだな!!」

「!?」


 ベンが俺の剣を自身の剣と合わせて上手い具合に逸らした。

 そのため俺の剣は地面にぶつかる。

 

 おお!? 

 もしかしてこのサイコパスって結構強いのか!?

 いや俺が弱すぎるのか?

 でも……よかったあああああ!!


 俺が心の中で狂喜乱舞していると、ベンが俺の腹を膝蹴りしようとしてきた。

 そこで俺は瞬時に【身体強化】を発動してじっくりと動きを見てみると……うん止まって見えるんですけど。

 

 もう蝶が膝に止まりそうな程遅いんですが?

 あれぇ? ベンってもしかしてこんなに弱いのぉ?

 今の俺なら膝蹴りが届くまでに5回位バク転出来そう。

 勿論そんな奇行はしないが。


 それにしてもどうしよう……まさか此処まで身体強化が強いとは。

 少し―――いやめちゃくちゃ誤算なんですけど!?

 流石に今の俺じゃあ緻密な魔力操作はまだ出来ないしなぁ。

 

 そうしてウンウンと悩んだ末に出した結末は―――


「――グハッ!?」


 普通に自分から吹き飛ぶことでした。


 このお陰でダメージを受けずに俺がゴロゴロと地面を転がれる。

 まさしく完璧な作戦だ。


 ふとベンを見ると何が起きているのか分からないと言った風に唖然としていた。

 熟練の剣士なら俺がしたことは分かっただろうが、所詮まだ子供ということか。

 だが俺的には非常に都合がいい!


 俺は親の仇のようにベンを睨みつけながら言う。


「クソッ! あれほど努力したのに俺では届かないのか!?」

 

 ふっ……どうよ、俺の完璧なヤラれ役の様なセリフは。

 あのサイコパスが困惑してるぞ!

 へっ間抜けな面してんなぁ!?


 俺が罵倒(心の中で)していると、意識を取り戻したベンが噛み噛みになりながらも言葉を発する。


「あ、え、お、おう当たり前だ! 落ちこぼれのお前程度ではこの俺に一撃を与えるなんて不可能なんだよ!! せ、精々これからも俺のサンドバックになるんだな!」


 そう捨て台詞を残して魔法訓練施設を出ていった。

 俺は周りの魔力が落ち着くのを確認したら何事もなかったかの様に立ち上がり、服を整える。


 あー違う意味で色々と疲れたわぁ……接待プレイって思った以上にムズいんだなぁ。

 

 俺が大きなため息を吐いていると、メアが入れ替わるようにしてやって来た。

 急いでやってきたのか少し息が切れている。

 

 息が切れていて仄かに額に汗を浮かばせているメア……えっろ。

 

 なんて考えていたのがいけなかったのだろうか。

 メアがいきなり俺の体をあちこち触り始めた事で、心臓が破裂しそうになり、一瞬にして呼吸が停止した。

 

「はぁはぁ……ご無事ですかジン様……」

「―――かはっ!! あ、うううううん! ももも勿論大丈夫だぞ!? だから俺の体を触るのお止めになって!?」


 でないと俺が死んじゃうから!!

 お願いだから離れてください!


「ですが傷があるかも……」

「ないないないない!! 絶対ないからまず一旦離れよう? ねっ?」

「……分かりました」


 俺の必死の説得によりなんとかメアが離れてくれた。


 はぁはぁはぁ……死ぬかとおもた……メア恐るべし!

 しかしあれほど心配してくれるとは……やっぱり手めっちゃすべすべだったな。

 それにめっちゃいい匂いがした……。


 俺がそんな事を思い出した後、心配そうにしていたメアの顔も思い出して自己嫌悪に陥ってしまったのは仕方ないと思う。

 まぁその時にメアはキョトンとしていたが。

 

  

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