第4話 和解と仲間
「いらっしゃいませ、あ、朝美さんじゃないですか。久しぶりです。」
當銀陽介の声が響く。いまは丁度、午後三時。ティータイムの時間だ。カフェ江崎に入ってきたのは江崎朝美だった。
「あれからどうなの、戦いは?」
朝美は陽介の耳元で囁いた。
「まあまあ、って感じです。」
煮え切らない返事だ。だが、それが最も的確だろう。戦い自体は何ら問題はないのだが、レイザーこと森本響平との関係が、最大の悩みの種だ。
「まあまあ、ねぇ…。何かあったんでしょ?」
「え?」
図星を付かれた陽介は、驚いて朝美を見つめた。
「ほら、陽ちゃんって、いつもそうじゃない。何か悩みがあったら、まあまあって言って誤魔化す。だからいつも失敗が大きくなるんだよ。」
「別にいいじゃないか。戦いの悩みは朝美さんには分からないだろ、どうせ。」
自分で発した言葉を聞いた途端、陽介はハッと気づいた。
「そうか、俺、あいつのこと何も考えてなかった。あいつの事全く理解してないのに、俺の意見ばっかり押し付けて、勝手なお節介だっただけなんだ。嫌われるのも当たり前だ。」
陽介は席を立った。俺、あいつに謝らなきゃ。ありがとう、気づかせてくれて。陽介は呟いた。
丁度その時だ。店の奥から森本響平が現れた。陽介は立ち上がると、彼の前に行き、頭を下げた。
「ごめん、俺、あんたの事何も分かってないのに、一方的に仲間になろうとか言ってた。」
必死に頭を下げ、謝る。しかし、森本響平は何も言わず、客の飲み終えた空のカップを黙々と片付けるだけだった。
なんだよ、陽介は不機嫌そうに森本響平の背中を見つめた。
「森本君もヒーローなの?」
江崎朝美が尋ねた。
「ああ。あいつと上手くいかなくて。それが俺の悩みなんだ。」
その時だ。二人のベルトが鳴った。
「マスター、いいですか?」
森本響平が尋ねた。相変わらず行動が速い。
「マスター、俺も…。」
慌てて陽介も言った。
「駄目、これ以上どっか行かれると店が…。」
マスターは困り顔だ。
「お父さん、私が手伝うから。行かせてあげて。」
江崎朝美が言った。
「そ、そうか。そんなに言うなら、分かった。」
「ありがとうございます、マスター、朝美さんもありがとう!」
礼を言うと陽介はベルトを掴み、店を出た。
怪物は、商業施設の方に向かっていた。
「まて、それ以上人々には近づけさせない!」
そう言うと陽介はベルトを装着、変身した。
「奴を仕留めるのは俺だ。」
そう言って変身した森本響平は、陽介を押しのけ前に出た。そして、左腕のスイッチを入れる。するとノイズが発せられ、怪物は耳を塞いで怯んだ。
「今だ!」
陽介は、怯んだ怪物に飛び蹴りを食らわせる。
「レイザー、ありがとう。俺がノイズの影響を受けないように前に出てくれたんだろ、スピーカーは前に向かって音を出すから。」
「お前…。」
レイザーは、スマートの方を見つめた。
「ごめん、俺はただ、お前と一緒に戦いたかっただけだったんだ。でも、それを押し付けてた。お前のこと何にも知らないのに、勝手に仲間になれるって思い込んで。ただのお節介だったよな。本当に悪かった。」
陽介は仮面越しに森本響平に話しかける。
「だからもう、仲間になれなんて、勝手なこと言わない。でも、許してくれ。俺、お前と仲良くなりたかっただけだったんだ。」
しばらくの間沈黙が続いていたが、それを打ち消すようにして怪物が攻撃してきた。陽介は手で受け止める。しかし、勢い良く殴られたせいでバランスを崩し、よろけてしまった。そこにすかさず、怪物が蹴りを入れてくる。その時だ。
「オラァ!」
レイダーが怪物と蹴りあう。
「お前、助けてくれたのか?」
陽介は驚いてレイダーを見上げる。
「まあな。俺もちょっとやり過ぎた所はあるからな。」
森本響平は続ける。
「俺、どうもお前のことが気に食わなかった。でも、気づいてくれたならそれでいい。それと、俺にはどうしても戦わなければいけない理由があるんだ。お前にも覚悟があるなら一緒に戦ってくれるか、仲間として。」
陽介は立ち上がる。そして手を差し出した。
「ああ、よろしくな、響平。」
「こっちこそ。」
響平は、出された手を握り返した。
「足引っ張んなよ、スマート。」
そう言うと、響平は怪物に向かい合う。
「お前こそ、レイザー。」
陽介は笑いながら、だが真剣に言った。二人は共に並び、怪物との戦いに挑む。
怪物が攻撃を仕掛けて来たが、それをスマートが受け止める。隙が出来た怪物に、レイザーが攻撃を入れる。
「どうやら、お前の言っていたことは正しかったようだ、スマート。一人で戦うより、仲間と戦う方が随分と良い。」
「だろ?」
陽介はマスクの下から微笑んだ。
「とっとと蹴りをつけるか。」
そう言うとレイザーはベルトのボタンを押した。
「おい、まだ充電溜まってねえぞ。」
ベルトのゲージは、まだ3分の2程しか光っていない。フルパワーの電撃を放つには、ゲージが満タンになっていなければいけない。
「何のための仲間か、分かってんのか?」
響平は陽介を見た。
「そういうことか。」
陽介は頷くと、ベルトのボタンを押した。まだゲージは3分の1程しか溜まっていないのにも関わらず。
「ぶっ潰してやるよ。」
レイザーの右腕は、稲妻を纏う。
「受けてみろ、俺達の稲妻!」
陽介の右腕も、稲妻を纏った。そして、二人の拳が怪物を打ち砕く。3分の1+3分の2=1だ。重なった電撃は合わさり、怪物を痺れさせる。
よろめいた怪物はそのまま倒れ、爆発した。太陽が、厳かに立ち並んぶ二人の戦士を照らしていた。
「適合者の発見は、あれからはどうなっている?」
黒沢一郎が秘書に尋ねる。
「現在、ベルトを渡した適合者は六人。それぞれ別の地区で怪人との戦闘にあたっています。」
菊池義雄は答える。
「順調だ。その調子でどんどん協力者を増やすように伝えてくれ。」
「分かりました。」
「懸念は、越水貴晶。彼らは試作品のベルトを持ち去っていった。いずれ、彼らが変身する時が来るだろう。その日に備えて戦士を集めておかなければ。」
黒沢はそう言うと、窓の外を眺めた。だが、その目は決して不安を感じさせない、むしろ余裕に満ちていた。相変わらず、何を考えているのか分からない社長だ。菊池義雄は思った。
「なあ、次は俺たちは、何をしたらいいんだ?」
男の声がする。ビルの屋上で、三人の男が集まって話している。
「俺たちの目的は一つだ。ファースト・アプライアンスの闇を暴き、制裁を下す。正義のために戦うんだ。このベルトを使って。そうすれば、俺たちは天下を取れる。」
リーダー格の男が言った。彼が、越水貴晶だ。
「まずは、全ての戦士を潰す。これからどんどん増えていくだろうからな。今のうちに潰しておくのが楽だ。」
越水は言った。
「なあ、俺だって変身したいぜ。ベルトが欲しいんだけど。」
別の男が言った。
「ベルトは適合者のみが変身できる。このベルトは俺にしか使えない。だがあの会社のことだ。そのうち誰でも使えるベルトに改良されるだろう。出力値は多少落ちる可能性はあるが、それを奪えばいい。」
越水はニヤリと笑った。
「こいつらが、今のところの適合者だ。六人いるが、誰から潰しに行くんだ?」
差し出されたタブレットの画面には、六人の顔写真が表示されていた。その中に、當銀陽介と、森本響平の顔もあった。
「分析しておけ。全員の戦闘力を調べて表を作る。手始めに、こいつだ。」
越水が指さしたのは、當銀陽介だった。
「適合者第二号、當銀陽介。第三号の森本響平と協力関係にある。」
タブレットを持った男が言った。
「協力関係、か。ならやめておいた方がいいな。こっちにしよう。」
越水は、別の男を指さした。都心の夜景は、夜空の星の輝きを消し去り、眩しいほどに輝いている。
機巧の雷霆 日野唯我 @revolution821480
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