第3話 衝突と共闘

「よし、終わりだ!」

 陽介の声が響いた。陽介のベルトが光った。稲妻を右足に纏い、陽介は怪物に向かって走っていった。その時だ。

「うわぁ、なんだ?」

 走る陽介に割り込むようにして、突然別の怪物がタックルを食らわせた。不意打ちを食らった陽介は、数メートル程度横に吹き飛ばされた。

「痛ってぇー」

 左肩をさすりながら現れた怪物を見る。現れた大柄な怪物は陽介を睨みつけるようにして身構えた。元からいた細身の怪物も横に並ぶ。

「まずいな、」

 ゴクリと唾をのむ。二対一は不味い。そう思った時だ。怒鳴り声が響いた。

「オラァァ!」

 怪物の背後から、殴りかかった謎の人影。紺色のスーツに、黒いアーマーを武装している。肩にはスピーカーのようなものが付いていて、首回りから二本のアンテナが細長く伸びている。まるでラジオのようなアーマーだ。

「あなたは、誰ですか?味方ですか?」

 混乱した陽介は尋ねた。紺色の戦士は低い声で答えた。

「敵では無い。」

「あなたも、ヒーローなのですか?」

「ヒーローはお前だけじゃない。覚えておけ。」

 そう言うと、紺色の戦士は怪物に殴りかかる。

「えっと、なんて呼べばいいですか?」

「レイザー。俺の仮名だ。」

「レイザーさん、助けてくれてありがとうございます。」

 陽介は仮面の下から微笑む。

「俺がこいつらを倒す。お前はそこで見てろ。」

 そう言うと、レイザーは細身の方の怪物を押し倒した。しかし、大柄な方の怪物に蹴り飛ばされた。

「大丈夫ですか?」

 陽介はレイザーのもとに駆け寄る。しかし、起き上がったレイザーとぶつかってしまった。

「痛ってぇー、あ、大丈夫ですか?ごめんなさい…」

 陽介は慌てて謝った。

「邪魔するな!」

 そう怒鳴るとレイザーは立ち上がったが、時すでに遅し、怪物はどちらも姿を消してしまった。

「くっそ、おまえが邪魔したせいだ。」

 ブツブツと愚痴を呟きながらレイザーはどこかへ行ってしまった。

「なんだよ、あいつ。名前はかっこいいくせに。」

 変身解除した陽介は近くのベンチに座り込んだ。


「遂に出会ったか、二人の戦士が。」

 面白そうに笑ったのは黒沢一郎だ。先ほどの戦いが映されたモニターを見ている。

「レイザー。ラジオの技術をモチーフに開発したスーツですね。」

 秘書の菊池義雄が言った。

「さあて、どんな活躍劇を見せてくれるのか、楽しみだな。」

 口元に笑みを浮かべ、黒沢は窓の外を眺めた。


「レイザーかぁ。かっこいいなー、俺も仮名考えようかな。スマートフォンだから、スマホマン、いや、ダサいな。フォーン…微妙かぁ。」

 仕事中にも関わらず、陽介は上の空だ。

「陽介君、皿を洗ってくれないか?」

 江崎正夫が釘を刺す。

「あ、ごめんなさい。」

 陽介は慌ててキッチンに向かった。

「スマート、そうだ!スマートにしよう!」

 店中に陽介の声が響いた。

「おい、店の中だぞ。静かにな。」

 森本響平が陽介をたしなめた。

「すいません。」

 その時だ。ベルトがまた鳴った。よし、行くか。その時だ。森本響平が江崎に言った。

「マスター、急用ができて、行かせてください。お願いします。」

「え?」

 驚く陽介を尻目に、森本響平は店を出ていった。あのベルトを片手に…。

「あの、マスター、俺も急用ができて…」

「ダメダメ。勤務中。しっかり働いてもらわないと。」

 江崎正夫は言った。

「彼には事情があるんだよ。」

 コーヒーを注ぎながら江崎は陽介を見た。

「事情って?」

「秘密厳守。はい、これ。窓際にいるあの人のとこね。」

 コーヒーを渡された陽介は不服そうに江崎を見たが、江崎は既にカウンター席に座っていたおじさん数人と雑談を始めていた。


「変身!」

 そう言うと、森本響平の身体を紺色のスーツが覆う。そして、黒い装甲が身を纏う。

「邪魔はいない。存分に潰させて貰う。」

 〝レイザー〟は、二体の怪物に殴りかかる。しかし、二対一は手強い。

「二対一の近距離戦は不利か。」

 呟くと森本響平は怪物と距離を置く。そして、左腕に付いているスイッチのようなものを押した。すると、両肩のスピーカーからノイズが放たれた。思いがけぬ攻撃に二体の怪物は耳を塞いだ。

「潰してやる。」

 距離を詰め、レイザーは怪物を蹴る。しかし、大柄な方の怪物が蹴り返す。ひるんだ隙にもう一方の怪物がレイザーを殴る。数歩下がった彼を尻目に怪物たちは逃げていった。

「くっそ、今日は調子がすこぶる悪い。」


「おい、あんた、ヒーローなのか?」

 閉店後、ベルトを見せて陽介は森本響平に尋ねた。

「それがどうした。」

 森本響平はすました顔で立ち去ろうとする。

「ちょっと待てよ、あんた、レイザーなのか?」

「さあな。」

 冷めた目で陽介を見つめると、彼は背を向けて帰ろうとする。

「ちょっと待てよ、話があるんだ。一緒に戦おうぜ、せっかく仲間がいるんだから。」

 慌てて陽介は追いかける。

「いつお前と仲間になった?戦士は何人もいるかもしれない。だが、ヒーローは俺だけでいい。」

「何言ってんだよお前、仲間がいた方が心強いに決まってるだろ。」

「この前邪魔したせいで、倒せなかったがな。」

 陽介の説得にも関わらず、森本響平は夜の闇に紛れてしまった。


「怪物が出現しました。怪物が出現しました。ただちに現場に向かい、交戦してください。」

 ベルトが鳴った。こんな時間にか。眠い目をこすりながら陽介はベルトを取り、起き上がる。時計は十一時半を指している。


「変身!」

 陽介は掛け声を上げて変身した。

「よーし、行くぜ!俺の名はスマートだ!」

「邪魔をするなよ。」

 森本響平が立っていた。

「変身!」

 光に包まれて、彼の身体はレイザーに変わった。

「やっぱり、お前だったんだな。」

 陽介は言う。

「どけ、俺が倒す。」

 陽介を押しのけると、レイザーは怪物に向かって走っていった。

「おい、また負けるぞ。昼も逃げられたんだろ。この前と同じ怪人じゃないか。」

「黙れ!」

 怒鳴るとレイザーは怪物に蹴りかかる。

「俺と手を組んだ方がいいんじゃねえのか?」

 しかし、レイザーは陽介の提案を無視して腕のスイッチを操作した。肩からノイズが響き渡り、陽介も怪物もその場で耳を押さえた。

「うるさいな、ちょっとは俺にも配慮してくれよ!」

 陽介は言った。だがレイザーは見向きもしない。

 レイザーのベルトが光った。

「ぶっ潰してやる。」

 レイザーはボタンを押すと怪物に蹴りを入れた。大柄な方の怪物が、細身の方を庇うが、稲妻によってどちらも吹き飛ばされた。胸を蹴られた大柄な方の怪物は倒れこみ、爆発した。細身の怪物も、倒れこむ。

「ほら、俺だけで十分だっただろう?」

「なんでそこにこだわる?仲間がいた方が心強いじゃねえか。」

 しばらくの間、静寂が続いた。その時だ。突然細身の怪物が耳をつんざくような高い叫び声を上げた。

「ギャアアアアア!」

 怪物は、油断していたレイザーに、狂ったように襲い掛かる。

「うっ」

 右腕を鋭い爪で攻撃され、腹部を膝蹴りされた。思わず倒れこんだレイザーの首元に、怪物が鋭い爪を突き付けようとした。

「危ない!」

 すかさず陽介、スマートが怪物を殴り飛ばす。

「大丈夫か?怪我は無いか?」

 レイザーは、仮面の下から手を差し伸べたスマートを睨みつけた。

「一々絡んでくんな、ウザいんだよ!」

 レイザーは怒鳴ると、陽介の手を振り払った。

「おまえ、優しくて真面目そうだと思ってたら、変身したら性格変わりすぎだろ。」

 陽介は言った。

「俺の事、そんなに気に食わねえのか?」

 陽介の言葉を無視して森本響平は立ち上がろうとした。しかし、右腕に激痛を覚え、彼はその場に崩れ落ちた。

「無理すんな、俺が助けてやるよ。」

 そういうと陽介は怪物に向かった。

 怪物は爪でスマートのアーマーを切り裂いてくる。しかし、頑丈なアーマーには傷一つ付かなかった。

「残念だったな。ヒーローの力を舐めんなよ!」

 ベルトが光った。

「受けてみろ、俺の稲妻!」

 稲妻を纏ったスマートの右足は、怪物を一撃で仕留めた。轟音が響き、怪物は爆発した。


「どうだ、見たか?俺も結構強いんだぜ。お前の足引っ張るだけじゃないんだよ。」

 変身を解いた陽介は、自慢げに言った。森本響平は何も言わずに、拳を握りしめて暗闇の中に消えていった。分厚い雲が、東の空からようやく昇り始めた半月を隠している。

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