筋トレ小話
※時系列は結婚してすぐの頃です。
――――――――――――――――――
余はこの家の王様である。
名前はルニエにゃ。
今日も元気に屋敷のパトロールをするぞ。
おや、開いているドアの隙間からなにやら「ふんっふんっ!」と声がするぞ。
こっそり覗いてみると、そこには一番大きな家臣がいたのにゃ。
大きい家臣は床に手のひらと足の指をつき、肘を曲げたり伸ばしたりしながら体を上下している。
賢い余は知ってるにゃ。これは『ウデタテフセ』というヤツにゃ!
家臣は余に気づいて一瞬だけ視線を向けたが、それ以外は何事もなかったかのようにウデタテフセを続けている。
余はしばらく前足を揃えて座って家臣の動きを眺めていたが……。
……うずうず。
なんか……気になるにゃ。
余は頭を下げて姿勢を低く構える。そして、狙いを定めて――
ぴょーーーん!!
――大ジャンプで家臣の背中に飛び乗った! もちろん、着地成功にゃ。
「む?」
家臣は腕をつっぱらせたまま、しばし静止していたが……余に下りる気がないと悟ると、またウデタテフセを再開した。
うにゃぅ、跳ねるような揺れが楽しいぞ。
心地の良い振動に余は後ろ足で顎を掻きながらあくびをして、それから香箱を組んで目を瞑る。ここはあったかくて広くてお昼寝にぴったりにゃ〜…………。
◆
ぽかぽか陽気の午後、私は居間に顔を出す。
「シュヴァルツ様、ルニエを見ませんでしたか? そろそろご飯の時間……」
言いかけた言葉が笑顔に変わってしまう。なぜなら、シュヴァルツ様が腕立て伏せをしている背中の上で、ふわふわの猫がぬくぬく熟睡していたから。
「ミシェル、ルニエを下ろしてくれ。全然退いてくれないから鍛錬の止め時がわからん」
ルニエが落ちないように慎重に腕立て伏せを続けるシュヴァルツ様がとても微笑ましくて、
「もうちょっと見ててもいいですか?」
「……鬼か」
眉根を寄せて苦情を言いながらも体勢を崩さないシュヴァルツ様に、また笑ってしまった。
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