【裏】本編第359話 久し振りの二人でお出掛け(6)

「おーい! アレックスちゃん、そろそろ帰るよー!」


 トーマスがそう呼び掛けたのは、夕暮れ迫る王城の裏庭でのことだった。声に気づいたアレックスは、「ありがとうございましたー!」と手を振りながら、簡素な小屋から飛び出してくる。


「すごいよ、王室御用達庭師は! 機材は最新だし、専用温室まであんの! 研修で異国の庭園を巡ったりもするんだって!」


「はいはい、良かったねー」


 大興奮でまくし立てるガスターギュ邸御用達庭師を、将軍補佐官はよしよしと宥める。

 シュヴァルツの追跡を諦めた使用人+補佐官御一行は数時間ほど王城の敷地内で過ごしていた。

 アレックスが庭師修行をしている間、トーマスは近衛騎士団の詰所に立ち寄っていたのだが、


「で、じーさんは?」


「いつの間にか消えてた」


 ゼラルドが行方不明だ。

 じき、城門の閉門時間になってしまう。不必要に敷地内に残れば、衛兵に捕縛される可能性だってある。トーマスが顎に手を当てて困っていると、


「皆様、遅くなりまして」


 城建物の方からゼラルドが歩いてきた。


「じーさん、どこ行ってたんだよ?」


 呆れ口調で尋ねるアレックスに、ゼラルドは飄々と、


「ちと、王城の使用人の働きぶりを見学に」


「は!? まさか王族の居住区画に入ったの? 衛兵に止められなかったの!?」


 びっくり眼のトーマスに、燕尾服の執事姿のゼラルドはこれまたしれっと答える。


「堂々としていれば、案外怪しまれぬものです。さすが、王家の方々は良い食器を使っておられる」


 ……どこまで侵入したんだ。

 トーマスは内心頭を抱える。捕まらなくて良かった。本当に良かった。


「将軍といい、君達といい、ガスターギュ家の人達は自由すぎるよ」


 問題になる前に、とっとと逃げよう。

 トーマスは二人の背中を押して、王城を後にした。



「あー、今日は楽しかったぁ!」


 夕暮れの涼しい風を受けながら、アレックスが伸びをする。


「実に有意義な休日になりましたな」


「俺は最後に疲れたけどね」


 同意するぜラルドの横でげんなりするトーマス。


「夕飯食べてく? 奢るよ」


 ガスターギュ邸近くの商店街に差し掛かった時、一応貴族のトーマスが平民二人に提案する。が、


「んー。いっぱい遊んだから、もう家でゆっくりしたいなぁ」


「左様ですな。某も屋敷でシュヴァルツ様達の帰りを待ちたい所存です」


 お家大好き使用人達に断られてしまう。


「それじゃ、惣菜でも買って家で食べよっか」


 あっさり方向転換した補佐官に、庭師は「げっ!」と呻く。


「トーマス様、また家に来るつもり? 早く帰りなよ」


「つれないこと言わないでよ。惣菜も奢るからさ」


「アレックス、トーマス様を邪険にしてはいけません。きっと休日も独り身でお寂しいのでしょう。いたわってあげなくては」


「ゼラルドさんって、親身なフリして一番酷いよね。俺、結構モテるんだよ。イケメンだし貴族だし」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、三人は帰路に着いた。


――――――――――――――――――

このあと、『久し振りのお出掛け(7)』で表と裏の話が合流します。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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