【裏】本編第358話 久し振りの二人でお出掛け(5)

 陶器店を出たシュヴァルツ達が次に向かった先は……。


「げっ! 王城に入ったぞ」


「これ以上の追跡は不可能ですな」


 驚きの声を上げるアレックスと、落胆に肩を落とすゼラルド。そんなガスターギュ家の使用人二人に、


「君達、諦めるのはまだ早いよ」


 トーマスはチッチッチと人差し指を振る。


「俺はガスターギュ将軍の補佐官だよ。閣下の名前を出せば大抵の場所はノーチェックで入り放題さ!」


 ふんぞり返る武官に、庭師少女は目を輝かせる。


「トーマス様、すげー! 躊躇いなく虎の威を借りまくってる!」


「まあね。俺は使える物は使い倒す男だよ」


 罪悪感の欠片もないところには恐怖さえ感じる。

 トーマスは門番と二言三言言葉を交わすと、アレックスとゼラルドを王城に引き入れた。



 先に城に入ったシュヴァルツとミシェルがまっすぐ向かったのは、南側の花園だった。

 楽しそうに迷路になっている花園に入っていく恋人達をよそに……外では壮絶な攻防が繰り広げられていた。


「うわー! これがあの王家の花園!! すげー! なにこれ、この芝の刈り込み方! 意味ワカンネー! 嘘、この木とこの木を接ぎ木したの? は? この花のこの色、見たことない。交雑育種? 信じらんねぇ! このトピアリーどうやって枝曲げ……むぎゅっ」


「はいはい、ミシェルさんにも見つかっちゃうから、あんまり騒がないようにね」


 大興奮のアレックスの口を、トーマスが背後から覆う。


「トーマス様、どうかご寛容に。アレックスは星繋ぎの夜会の時から王城の庭が気になっておりましたから」


「そうだよ! こないだは夜でよく見えなかったから、今日はもっと堪能させろよ!」


 ゼラルドのフォローに、アレックスがジタバタもがきながら同意する。


「でも、今日の主旨は将軍達を尾こ……ゲフン、見守ることだからさ。庭の散策はまた今度にしようよ。……って?」


 アレックスを諭しながら、トーマスはふと気づいてキョロキョロと辺りを見回す。


「? どうしたの? トーマス様」


「ガスターギュ閣下がいない」


 さっきまで生垣の上から見えていた頭が消えている。これは……。


「撒かれましたな」


「だね」


 ゼラルドの言葉にトーマスは頷く。

 今まで尾行を容認していたシュヴァルツが姿を消した。それはつまり、『これ以上ついてくるな』という無言の警告だ。


「ここまでか」


 トーマスはちぇっと小さく舌打ちする。補佐官だって将軍は怖い。深追いして返り討ちに遭うのは勘弁だ。


「アレックスちゃん、後は好きにしていいよ。池の向こうに庭師の待機小屋があるよ」


「ホント!? 造園の話聞いてくる!」


 トーマスが諦めて手を離すと、アレックスは兎のように飛び跳ねながら駆けていく。


「やはり若い恋人達は二人きりにして差し上げないと」


 何故か追跡失敗に満足げなゼラルドに苦笑いしてから、トーマスは小さく呟いた。


「ま、今日のところは見逃してあげましょう」

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