【裏】本編第357話 久し振りの二人でお出掛け(4)

 陶器店の中では、シュヴァルツとミシェルが和気藹々と皿を選んでいる。

 それを窓の外から見守っていたゼラルドが、不意に「失礼」と目頭を押さえてその場を離れた。


「? じーさんどうしたんだ?」


 訝しむアレックスに、トーマスは曖昧に笑って、


「ミシェルさんは自分の物より先に、ゼラルドさんとアレックスちゃんの皿を選んでたんだ。それで感極まっちゃったんじゃないかな」


「あー、ミシェルってそういうとこあるよね」


 アレックスはしみじみ納得のため息をつく。


「のほほんとしてるように見えて、いつも周りに気を遣ってさ。もっと自分勝手に生きればいいのに」


 ぶつくさ文句を言う庭師少女に、武官の青年は微笑む。


「アレックスちゃんは、ミシェルさんのこと物凄く好きだよね」


「そりゃそうだ。だってミシェルはオレの恩人だもん」


 何のてらいもなく肯定する。


「雇ってくれたシュヴァルツ様にも感謝してるけど、今オレが真っ当に暮らせてるのはミシェルのお陰。オレが何度ヘマしたって見捨てないでいてくれるし、悩んでる時は話を聞いてくれた。飯もたくさん食わせてくれるしね」


 仕事を失くし両親が不仲になった家の長子だったアレックスは、子供ながらに精神的自立を要求されていた。ミシェルは折れかけていたアレックスを支えてくれた唯一の年上の同性だった。

 強がっていても、アレックスは思春期の少女だ。母親不在の現状で、心と体の成長過程で頼れる存在が傍にいてくれるのは大きな安心に繋がる。


「だからオレ、ミシェルとシュヴァルツ様が結婚するのがすげー嬉しいんだ。オレはずっとガスターギュ家に仕えて、ミシェルを護ってやるんだ」


 それはとても小さな、でも揺るがない決意。


(将軍だけでなく、ミシェルさんにもなかなか人望があるんだな)


 ガスターギュ家の堅い結束を垣間見たトーマスなのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る