【裏】本編第356話 久し振りの二人でお出掛け(3)

「お、移動するぞ!」


 シュヴァルツとミシェルがカフェテリアから出てきたのを見つけ、アレックスは大急ぎで二個目のクレープを口の中に押し込んだ。


「早く尾行しなきゃ見失うぞ」


 やる気満々の最年少者にトーマスは苦笑する。


「そんなに焦らなくても平気だよ。行き先は大体見当がついてるから」


「へ? なんで?」


 首を傾げるアレックスに、青年補佐官は飄々と、


「閣下に訊かれて俺が王都のデートスポット教えておいたからね」


 ……。

 アレックスとゼラルドは顔を見合わせヒソヒソと、


「シュヴァルツ様、完全に相談の人選ミスってね?」


「そのようでございますな」


 ガスターギュ家の使用人は本人の前でも容赦がない。

 二人の暴言を気にする様子もなく、トーマスは悠々と対象者の追尾を始めた。



 次に訪れたのは、洒落た外観の陶器屋。


「店の中、結構混んでるな。シュヴァルツ様の頭は見えるけど、ミシェルの姿は確認しずらいぞ」


 窓の外からこっそり様子を窺いながらぼやくアレックス。しかし、トーマスはまたもや余裕綽々で、


「大丈夫、すぐに空くよ」


「へ?」


 訝しむアレックスの横から、わらわらと客が外へと飛び出してきた。


「な、なんだ?」


 びっくり眼の彼女に、彼は説明する。


「まあ、夢の世界に突如トロルが乱入したみたいなもんだから」


「ひでぇな! シュヴァルツ様はいい人なのに!」


 アレックスは瞬時に憤慨するが、


「でも、オレも初めてシュヴァルツ様を見た時は悲鳴上げちまったもんな……」


 思い出して、しみじみと悔恨を語る。


「そんなにビビっちゃったの?」


 揶揄するトーマスに、アレックスはムキになって言い返す。


「だって! 逆光で真っ黒だったし、バカでかいし、鎌持ってたし!」


「鎌って死神の鎌デスサイズ?」


「いや、普通の草刈り鎌」


 なんにせよ怖い。


「そういうトーマス様は、シュヴァルツ様との初対面はどうだったんだよ?」


 水を向けられ、トーマスは上目遣いに思い出す。


「俺は配属先が決まった初日に、将軍の執務室に行って――」


「それで?」


「――ドア開けた瞬間、トロルが見えて入らずに閉めた」


「ひでぇな!!」


 酷すぎた。


「でも、王都に来てすぐの頃の閣下は凄かったんだよ? 髭も髪もぼーぼーでしょっちゅう衛兵に止められて」


 あの頃に比べたら、今のシュヴァルツは子鹿のように可愛らしい。


「ゼラルドじーさんは? シュヴァルツ様との初対面はどうだったの?」


 老家令は目を閉じて、


「あの時の某は瀕死の状態でしてな――」


 海辺の光景を瞼に浮かべる。


「――朦朧とした意識の中で、とうとう地獄からお迎えが来たのかと思いました」


 ……三人とも、衝撃の初対面だった。

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