【裏】本編第356話 久し振りの二人でお出掛け(3)
「お、移動するぞ!」
シュヴァルツとミシェルがカフェテリアから出てきたのを見つけ、アレックスは大急ぎで二個目のクレープを口の中に押し込んだ。
「早く尾行しなきゃ見失うぞ」
やる気満々の最年少者にトーマスは苦笑する。
「そんなに焦らなくても平気だよ。行き先は大体見当がついてるから」
「へ? なんで?」
首を傾げるアレックスに、青年補佐官は飄々と、
「閣下に訊かれて俺が王都のデートスポット教えておいたからね」
……。
アレックスとゼラルドは顔を見合わせヒソヒソと、
「シュヴァルツ様、完全に相談の人選ミスってね?」
「そのようでございますな」
ガスターギュ家の使用人は本人の前でも容赦がない。
二人の暴言を気にする様子もなく、トーマスは悠々と対象者の追尾を始めた。
◆
次に訪れたのは、洒落た外観の陶器屋。
「店の中、結構混んでるな。シュヴァルツ様の頭は見えるけど、ミシェルの姿は確認しずらいぞ」
窓の外からこっそり様子を窺いながらぼやくアレックス。しかし、トーマスはまたもや余裕綽々で、
「大丈夫、すぐに空くよ」
「へ?」
訝しむアレックスの横から、わらわらと客が外へと飛び出してきた。
「な、なんだ?」
びっくり眼の彼女に、彼は説明する。
「まあ、夢の世界に突如トロルが乱入したみたいなもんだから」
「ひでぇな! シュヴァルツ様はいい人なのに!」
アレックスは瞬時に憤慨するが、
「でも、オレも初めてシュヴァルツ様を見た時は悲鳴上げちまったもんな……」
思い出して、しみじみと悔恨を語る。
「そんなにビビっちゃったの?」
揶揄するトーマスに、アレックスはムキになって言い返す。
「だって! 逆光で真っ黒だったし、バカでかいし、鎌持ってたし!」
「鎌って
「いや、普通の草刈り鎌」
なんにせよ怖い。
「そういうトーマス様は、シュヴァルツ様との初対面はどうだったんだよ?」
水を向けられ、トーマスは上目遣いに思い出す。
「俺は配属先が決まった初日に、将軍の執務室に行って――」
「それで?」
「――ドア開けた瞬間、トロルが見えて入らずに閉めた」
「ひでぇな!!」
酷すぎた。
「でも、王都に来てすぐの頃の閣下は凄かったんだよ? 髭も髪もぼーぼーでしょっちゅう衛兵に止められて」
あの頃に比べたら、今のシュヴァルツは子鹿のように可愛らしい。
「ゼラルドじーさんは? シュヴァルツ様との初対面はどうだったの?」
老家令は目を閉じて、
「あの時の某は瀕死の状態でしてな――」
海辺の光景を瞼に浮かべる。
「――朦朧とした意識の中で、とうとう地獄からお迎えが来たのかと思いました」
……三人とも、衝撃の初対面だった。
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