【裏】本編第355話 久し振りの二人でお出掛け(2)

「あ、いたいた!」


 商店街を抜けた先で、トーマスは声を上げた。広場の中央、大きな欅の下で目的の人物はすぐ見つかった。

 トーマス御一行の位置から欅まではまだ大分距離があるが、


「さすがフォルメーアのランドマーク将軍。どこに居てもすぐ発見できるね」


「トーマス様、それ不敬じゃね?」


 酷い物言いの将軍補佐官を庭師少女がジトッと睨む。


「何してるんだろ? あんな所に突っ立ったままで」


 待ち合わせの木の下から動かないシュヴァルツとミシェルをアレックスが訝しんでいると、


「どうやらお互いに服装を褒めあっているようですな」


「うわーっ、照れちゃって。こっちまでむず痒くなるね!」


 ゼラルドとトーマスが口々に言う。


「え? 二人共、声聞こえるの!?」


 こんなに遠くの雑踏の中で! 驚くアレックスに大人二人は飄々と返す。


それがしは多少唇が読めます故」


「閣下とミシェルさんの様子を見れば、大体会話の内容も解るっしょ」


「……」


 あれ? こいつら、もしかして凄かったりするの?

 侮っていた大人達の意外な能力に、アレックスは目の覚める思いだ。


「お、移動するよ」


 歩き出したシュヴァルツとミシェルに、お邪魔虫三匹はこっそり後をついていく。

 途中、人の波を避けるようにシュヴァルツがミシェルの肩を抱いたり、二人が腕を組むのを見て、思わず顔がにやけてしまう。


「あの二人、めっちゃイイカンジじゃん」


「心配する必要ありませんでしたな」


「ふつーにイチャイチャしてるね」


 人混みに紛れながら、こそこそと会話を続けていると……。

 不意にシュヴァルツが足を止め、微かに首を動かした。


「やべっ」


 トーマスが小さく身を竦める。


「見つかった」


「へ? 今のが? 気のせいじゃない?」


 振り返って確認したわけでもないのに。とアレックスは疑うが、


「見つかったのは我々ではなく、アレックスですぞ」


 ゼラルドは落胆のため息をつく。


「すぐに対象者の死角に隠れられるよう遮蔽物の配置を計算して追尾しなくては。わずかに視界に入っただけで、シュヴァルツ様はアレックスの姿を認識しましたぞ」


 ……そんな追跡技術知らねーよ。一般市民の彼女は内心悪態をつく。


「ちぇ、見つかっちゃったのなら、このスパイごっこは終わりか」


 アレックスは舌打ちするが、


「いや、続行して構わないんじゃない?」


 トーマスはけろりと返す。


「こっちに咎めに来ないってことは、容認したってことでしょ。もうちょっと見ていこうよ」


 補佐官は罪悪感なく大胆だ。


「やれやれ、どうなっても知りませぬぞ」


 そう言いつつも、家令も帰る気はないらしい。


「あ! あの二人、カフェテリアに入るぞ」


「よし、外で張り込みだ。アレックスちゃん、そこの屋台でクレープ買ってきて」


 シュヴァルツ達を追いかけるアレックスに、小銭を渡すトーマス。その後をため息混じりについていくゼラルド。

 なんだかんだで三人は三様に充実した休日を過ごしていた。

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