エイプリルフール小話(2)
「――そんなわけで、今日は『嘘をついてもいい日』だから、誰かを騙してみたいなーって思ったわけです」
アレックスはざっくりと、何故こんな話題になったのかをシュヴァルツに説明した。
「『ついてもいい日』ということは、『つかなくてもいい』ということだろう?」
「そうですけど。そういう風習があるんだから、乗っかってみるのも面白いでしょ?」
若い庭師はお祭り騒ぎが大好きだ。シュヴァルツは腕を組んで「ふむ」と頷く。
「俺も他人を傷つけない楽しい嘘で驚かせるのはいいと思う」
アレックスの言葉に共感するトーマスだが、
「オレ、トーマス様の嘘に散々傷つけられてるけど?」
当の庭師からは恨みがましい目で睨まれてしまう。
「そう? それは捉え方次第じゃないかな」
飄々と返す王子様には反省の欠片もない。
アレックスはトーマスに舌を出してから、シュヴァルツに向き直る。
「ね、シュヴァルツ様も何かミシェルに嘘をついてみれば?」
「む? 俺はそういうことは……」
「ちょっと驚かして、すぐネタばらしすればいいじゃん! あ、来た」
丁度よいタイミングで、ミシェルが厨房から出てきた。
「あれ? 皆さん集まってどうしたんですか?」
玄関ホールに集合した家族に、女主人は首を傾げる。すかさずアレックスが、
「シュヴァルツ様がミシェルに言いたいことがあるんだって!」
当主の背中を押して彼女の前に立たせた。
「言いたいこと?」
ムチャブリされて焦ったシュヴァルツは、苦し紛れに嘘をひねり出す。
「じっ、実は……家を買った」
突然の告白に、ミシェルはキョトンとして、
「またですか?」
さすがに三度目ともなるとリアクションが慣れていた。
「今度はどこに買ったのですか? 近場ですか?」
まったく疑っていない妻に、夫は一気に罪悪感に押しつぶされそうになる。
「いや、違うんだ」
「違う? 遠いところですか?」
「そう――」
――ではなく、と否定する前に、
「あ、もしかして海の方ですか!?」
ミシェルが正解をみつけたとばかりに手を叩いた。
「南方の海岸沿いは今はトーマス様が治めてますから、ガスターギュ家の別邸を建てるにはぴったりですものね! 私の母とゼラルドの故郷も近いですし。去年の海が楽しかったから、今年も行きたいと思っていました。夏になったら是非連れて行ってくださいね!」
「あ……ああ」
笑顔で見上げる妻に、夫はコクコク頷くしかない。
「では、私は買い物に行ってきますね」
スカートを翻し、ミシェルは屋敷を去っていく。
残されたシュヴァルツは……、
「ゼラルド、直ちに手頃な物件を探してくれ」
「御意」
恭しく頭を下げる家令の横で、庭師と王子が首を竦める。
――ガスターギュ家当主は、新妻のためなら嘘も
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