トフィー(4)
「やべ、コゲちゃう!」
すっかり話に夢中になっていたアレックスは、ブクブクと茶色く煮えた鍋の中身を確認し、急いで砕いたアーモンドを投入する。
「ナッツを混ぜたら、油を塗った浅いトレイに広げて、冷ましたら完成!」
甘い湯気の香る飴菓子を前に、我ながら上出来だと言わんばかりに腕組みして胸を張る。
「アーモンドたっぷりで食べごたえがありそうだな」
「ドライフルーツやチョコをトッピングしても美味いんだぜ」
アレックスの説明に、シュヴァルツは喉を鳴らす。
「これはいつ頃食べられるんだ?」
「固まるまでだから、この時期だと一時間くらいかな?」
「案外長いな」
残念そうなご主人様に、アレックスは慌てて取り繕う。
「シュヴァルツ様、お腹減ってるなら、オレひとっ走りして市場で食いもん買ってこようか? その方が早いし」
庭師の提案に、シュヴァルツは苦笑を返す。
「いや、アレックスがせっかく作ってくれたのだ。完成を待つ時間も楽しい」
「シュヴァルツ様……」
そんなに期待されるとこそばゆい。
「トフィーが固まるまでの間、もう少しでも話に付き合ってくれないか? コーヒーを淹れよう」
「喜んで。……って、シュヴァルツ様が淹れてくれるの?」
驚きに目を皿にするアレックスの前にサイフォン式のコーヒーメーカーを置き、シュヴァルツは不敵な笑みを浮かべる。
「俺のコーヒーはミシェル仕込みだから、なかなかの味だぞ」
「ごちそうになります」
つられてアレックスも笑う。
アレックスはガスターギュ邸に勤め始めてからまだ日が浅い。シュヴァルツと一対一で話す機会はあまりなかったが、
(顔はおっかないけど、噂みたいな怪物ってわけじゃないよね。世間のみんなは、こんな将軍の姿を知らないんだよな)
特別感に頬が緩んでしまう。
ミルでコーヒー豆を挽く音が心地好い。
退屈だった休日の昼下がりは、お互いの理解を深める良い機会になった。
【おまけ】
「あ! トフィーは柔らかいうちにナイフを入れると切り分けが簡単なのに、うっかり完全に固まるまで冷ましちゃった。硬いから、割るの大変なんだよなぁ」
「俺に任せろ。得意分野だ」
「……粉にはしないでくださいね?」
※その後、関係者が美味しくいただきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。