トフィー(3)

 アレックスは深呼吸して続ける。


「オレ、自分の家族が大好きで、庭師って家業にも誇りを持ってるし、家の手伝いもチビ達の世話も楽しかったし、普通に幸せだった。でも、家族と離れて暮らすようになってから、真面目に考えるようになったんだ。その……自分の将来のことを」


 纏まりきらない感情を訥々と零す。


「このお屋敷に来てから、オレ、いっぱい褒めてもらえてさ。働けば働いた分だけお金がもらえて、やりたいことを言えば耳を傾けてもらえる。ゼラルドのじーさんの小言はうるさいけど、叱ってもらえるのはありがたいんだと思う」


 それからシュヴァルツを見上げて、照れたようにはにかむ。


「ええと、何が言いたいのかっていうとね。オレ、この家に残れて良かった。今でも家族は大事だけど、離れても大丈夫だって思えて、自分だけの道を選べる自信もついた。それはオレを見捨てず面倒見てくれたシュヴァルツ様とミシェルのお陰です。ありがとうございます」


 真摯な言葉を真っ直ぐ受け止め、シュヴァルツは微かに口角を上げた。


「俺は特別なことはしていない。アレックスを連れてきたのはミシェルだ。礼なら彼女に」


 連れてきたというよりは、体当たりされたのだが。


「うん、ミシェルにはいつも感謝してる」


 少女は素直に頷く。そして、思い出したように悪戯っぽく、


「そういえばね、ミシェルって毎日オレのこと褒めてくれるんだ。失敗して注意されることもあるけど、褒められることの方が断然多いの。あと、小さなことでも絶対『ありがとう』って言うんだ。だからオレ、『なんで当たり前のことを毎回褒めたり感謝したりするの?』って訊いたんだ。そしたらミシェルはこう答えたんだ。『あんまり自覚はなかったけど、それはきっとシュヴァルツ様の影響かな』って」


「俺の?」


 首を傾げるシュヴァルツに、アレックスは大きく頷く。


「『シュヴァルツ様が私の良いところをたくさん見つけてくださるから、私も他の人の良いところを見つけられるようになった』って。それってすっごいノロケじゃない?」


 ニヤニヤ笑う少女に、十四歳も年上の将軍は頬を真っ赤にする。


「お、俺は別になにも……。ミシェルに褒めるところが多いだけだ」


 しどろもどろでそっぽを向く我が国最強の将軍を、アレックスは初めて(かわいい!)と形容してしまう。


「シュヴァルツ様って、ほんとにミシェルが好きなんだね」


 追撃でからかってみるが、


「嫌う要素がないだろう」


 逆に真顔で打ち返されてしまう。

 ミシェルは自分の家族とは上手くいっていないらしいが、他人であるシュヴァルツにここまで言わせるのだから、二人の相性はとびきり良いのだろう。

 ……ごちそうさま。

 アレックスは満腹感に心で手を合わせた。

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