トフィー(2)
「トフィー?」
鸚鵡返しするシュヴァルツにアレックスは頷く。
「カリカリした砂糖菓子です。
言いながら、グリルに火を点ける。
「具なしでもいいけど、せっかくだからこれも入れよう」
次に彼女が取り出したのは、貯蔵瓶にみっしり詰まった生アーモンド。
「まず、フライパンでアーモンドを乾煎りします」
フライパンを揺すって転がしながら煎っていく。焼き色が付いたら火から下ろし、トレイに広げて冷ます。
「で、このローストアーモンドを布巾に包んで麺棒で叩いて砕きます」
「手伝おう。壊すのは得意だぞ」
「壊すじゃなくて砕いてくださいよ」
チュニックを腕まくりするシュヴァルツに立ち位置を譲る。将軍は軽く振りかぶった麺棒を、調理台に置かれた布巾に打ち下ろして――
ゴッ!!!
――激しい打撃音と足の裏からビリビリ伝わる振動に、アレックスは飛び上がった。
「ちょっ! シュヴァルツ様、加減して! 調理台割る気ですか!?」
叫ぶ庭師に当主は怪訝そうに眉を顰め、
「大分手加減しているが? これで調理台が割れるなら耐久性に問題があるのだろう」
「……どんだけモンスターカスタマーなんすか?」
あの衝撃に耐えろという方が間違いだ。
「とにかく、もっと優しく砕いてください。家に帰ってきたミシェルが調理台が破壊されてるのを見たら泣きますよ?」
「む、それは困るな」
諭す赤毛の少女に、いかつい青年は身を縮めて麺棒を振るう。
「あ、あんまり潰しすぎないで。クラッシュアーモンドがアーモンドプードルになっちゃう」
「むう。難しいな」
簡単なはずの作業を
「次に鍋に同量の砂糖とバターを入れ、火にかけます」
庭師は分量を計った材料を片手鍋に放り込んでいく。
「アレックスは料理が出来るのだな」
溶けていく鍋の中身を見ながら感心するシュヴァルツに、彼女は得意げに胸を張る。
「まあね。ミシェルほど本格的でもレパートリーが広いわけでもないけど。ほら、うちは親父も母さんも働いてて、小さい弟達もいたから。必然的に長子のオレが家の手伝いをしなきゃならなかったわけですよ」
アレックスは二人の弟と一人の妹のお姉さんだ。
「うちは親父が失業する前から大して裕福じゃなかったし、チビ達の学費もかかるし、家にある材料で簡単に作れるトフィーはおやつの定番だったんです」
懐かしそうに語るアレックスに、シュヴァルツは眩しげに目を細めた。
「アレックスは偉いな」
「そう。オレ、結構苦労人なんすよ」
おどけた口調で笑う。
「オレ、実家にいた頃は親父と庭師の仕事して、家に帰ったら母さんの手伝いとチビ達の世話してさ。親父が失業して母さんがチビ達連れて出てってからは、こんな時こそオレが家族を支えなきゃって思ってたんだ。でも、この家に来てから……ちょっと変わった」
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