黄金の国ジパングってそういう意味じゃないよね?
朝の目覚めは穏やかだった。昨日は勝先生の膝枕でそのまま眠ってしまったが、先生は俺のことを部屋の布団まで運んでくれたらしい。ほんとうに優しい人だ。
「しかしこれからどうすればいいんだろうか?」
俺は寝巻から着替えて化粧をしながら悩んでしまった。ここは幕末に極めてよく似た世界。まあ変に技術は進んでいるところはあるが、俺が知る限り史実の世界と同じ歴史を歩んでいる。
「だけどなんで岡田以蔵なんだよ…」
いっそ坂本龍馬に生まれ変わるとかじゃダメなの?岡田以蔵って維新がクリアなら、途中で堂々とバットエンド迎える奴ですよ。モブより酷い。前世の記憶を思い出さなきゃたぶん半平太の姉さん巻き込んで処刑されてるだろう。俺自身それ以外に生きる道はなかったとは言えども、すでに人斬りを何度もやっている。
「でも花魁より人斬りの方がましだろうよ」
少なくとも遊郭に閉じ込められてそこから出れないよりも、人斬りとして世間をうろうろできる方がよっぽど健康的だとは思う。これは価値観の問題だが、俺を遊郭に売り飛ばさずに拾ってくれた半平太姉さんには感謝はしている。同時にわだかまりも覚えてはいるけど。重要なのはこれからだ。俺は未来の歴史の知識がある。そして勝海舟という超重要人物の弟子にもなった。前世では何者にもなれなかった俺もここでなら何かになれるはずだ。かつて憧れた坂本龍馬もいる。ここで俺は自由に生きてみたい。そのためには無事に維新を迎えることが重要だろう。勝先生は大丈夫だろうけど、龍馬は間違いなく死ぬ未来だ。今世では幼馴染でもあるので、助けてやりたい。
「お主は何もわかっとらんゼヨ!!」
物思いにふけっていた俺の耳に大きな声が響いてきた。この声はよく知っている。
「アなたこそわかってまセーん!」
そしてもう一つの声ははじめて聞く声だった。俺は部屋の襖をあけて縁側に出た。すると庭には上半身ビキニでミニ袴にニーソの金髪セミサイドテールの美しい少女と、セーラー服を着た茶髪の南蛮人の可愛らしい少女がいた。二人は酒瓶を片手に何かをやいのやいのと言い合っていた。
「
「違いマーす。
「うわぁ超しょうもねぇ」
二人は
「てか龍馬。お前朝から飲んでんの?つーかそっちの人はどこの誰?」
俺は金髪の少女、幕末の大英雄様にあらせられる坂本龍馬に話しかけた。
「朝からじゃないゼヨ!昨日の夜からゼヨ!」
酔いで顔を赤らめてにへらと笑う顔は可愛いけどしまりが全くない。こんな奴が将来の英雄なんてにわかには信じられない。
「ようは徹夜で飲んで今の今まで騒いでいたと、すがすがしい程バカだな、まだ早いうちから騒いでんじゃねーよ。先生起こすとまた詰められるぞ」
勝先生は朝はぎりぎりまで寝る派なので、途中で起こすとすこぶる機嫌が悪くなる。
「それは嫌ゼヨ!カル!初太語りはまた今度ゼヨ!」
「そうデーすか。残念デーす。ステイツには龍馬のように話せる奴がいないのデ楽しかったのデすが。また今度にしましョーう」
セーラー服の南蛮人さんはカルという名前らしい。綽名だろうか?
「ところであなたはだれデーすか?初太の乳首に興味のなさそうな退屈そうな人間の匂いがしマーす!それでも男の子が沢山いる、すなわち金玉いっぱい黄金の国ジャパンの女ですか?恥をしりなサーい!」
この世界は男女比で圧倒的に女余りなのだが、それでも日本は世界でもっとも男が多いらしい。
「仕方ないゼヨ!以蔵は遊郭に行ったこともない
「Oh!それは恥ずかしい女デーすね!このカルブレイスを見習いなサい!ワタシは昨日なんとあの吉原にいったんデーすよ!」
なんで俺は朝っぱらから酔っ払い二人にディスられてんだろう?
「吉原に行った?でもあそこって幕府の命令で外国人の立ち入りは禁止だよね?」
黒船以降南蛮人が日本に出入りしているが、同時に男を外国に誘拐していくケースが後を立たない。とくに多かったのは
「そうデーす。ワタシ勇気を振り絞って吉原行きまシた!でも門番入れてくれナい!あんまりデーす!同じ女ならわかるハずデーす!ワタシずっと夢でシた!小さいころママから聞きまシた!黄金の国ジャパンには男の子がいっぱいいるッて!幼い日に図書館で見つけた保健体育の教科書に歌麿の挿絵あったんデーす!日本の益荒男の
「そんな願望ぜんぜんわかんねーよ。でもわかった。それで吉原の門の前でいつもたむろってる龍馬に拾われて意気投合して飲んでたと」
いつぞや仕事で吉原に出入りしたとき、龍馬が吉原の門の前でうろちょろしているのを見たことがある。なんか今日はそんな気分じゃないかなーとか推しが休みかーとかひとり言言いながら帰っていく背中はひどく情けなかった。
「た、たむろってないし!うちは遊郭で一発キメてちょうど帰ってきたときにカルを拾っただけだし!か、勘違いしないでよね!うちは元服済みだし!吉原のホストはみんなうちの穴兄弟ってくらい遊びまくってるし!」
「さすがデーす龍馬!ワタシはあなたをリスペクトしマーす!早くあなたの竿姉妹になりたいデーす!!」
「う、ううん!そ、そうゼヨ!いつかうちの竿姉妹にしてやるゼヨ!」
龍馬さんがすごくきょどってる。まるで初めての合コンでつい最近彼女と別れましたアピールしてる童貞君みたいなキモさを感じます。絶対にこいつ元服してないよ。こんどから童貞女って心の中で罵ってやろう。
「煩い…。今何時だと思っているんだお前ら…」
まるで幽霊のような恐ろしい顔で襖の隙間から勝先生が顔を出していた。メッチャ顔が怖い。
「「「ひっ?!」」」
「次起こしたらお前ら一人残らず切腹だからな。静かにしてろ。いいね?」
俺たちはこくこくと頷いた。そして勝先生は襖をぴしゃりと閉めた。
「OH...こわい人デーすね。仕方ありまセーん。まだ朝も早いですがお開きにしましョう」
「そうだな。これからってときなのになぁ。また今度飲むか!」
「そうでスね!ぜひ居留地にきてくだサーい。ワタシの春画コレクションぜひみてくだサーい!あははは!」
「そりゃたのしみゼヨ!わははは!」
カルブレイスと龍馬は庭に散らばったごみをせっせと拾い始めた。
「いや。お前らはもっと早くにお開きにしろ」
俺も酔っ払いたちのかたずけを手伝った。かたずけが終わってすぐにカルブレイスは勝先生の邸宅を後にした。それからしばらく俺たちは勝先生が起きだしてくるのをおしゃべりしながら待った。起きた勝先生の朝の支度を弟子として手伝ってから、三人で江戸城へと出勤したのであった。
***作者のあとがき***
カルブレイス?聞いたことない名前ですね。きっとただモブキャラですね。
読者様へ
幕末の偉人で、この人の活躍が見たい!っていう人がいたら、感想欄に書いてみてください。
参考にさせていただきます。
あとぜひとも作品を盛り上げるのを手伝ってほしいなって。
ハート♡とか星★とかつけて言ってくれたら筆者は嬉しいなって思います!
これからもこの逆転幕末をよろしくお願いします!
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