【Section4】
「どうして、こんな事に…。」
小さく呟いて亮治は、きつく唇を噛んだ。
ガラスの向こうには、ICUに繋がれた愛おしい婚約者の姿。
まだ、16才なのに…こんな目に…。
「先生…少しお休みになられたほうが…。」
看護師である原田が、心配そうに声をかける。
「ああ、わかっている。だけど僕はあの子の保護者なんだ。」
ピクっと、原田の眉が片側だけあがる。
「保護者?でも親御さんは…。」
「親御さん?それは一ノ瀬家の事かい?」
「そのほかにどなたがいらっしゃるっていうんです?」
「…そうか。…君は何も疑問に思わないんだね。一ノ瀬家に特別室を借りていられる
資金がありそうに見えるかい?」
「え…?」
原田は、困惑したような表情を浮かべる。あの子はずっとあの病室で小さい頃から決まっている。それがなぜかなんて考えた事がなかった。病院側の配慮かと思っていたので気にもしないでいた。
「…まぁいい。一看護師の君に話してもしょうがない話だ。」
「阿久津先生…でも私はあの子の担当看護師です…。」
「知る権利があると?」
亮治は少し語尾をきつめに、原田に言葉を放つ。
「もう、誰も信じられない。この病院には彼女への殺意を持った人間がいる事は確かなんだ。原田くん…君もだよ。」
「でも私と佐竹君は何も関係ないじゃないですか!」
「わかるもんか…君がそそのかして佐竹にあんなことをさせたかもしれない。」
ビクっと、原田は体をすくめた。
この人は、鋭い。
「ふ…やっぱりか…僕の前から去れ。君のような女は僕は興味ないんだ。」
「でも…私は阿久津先生のこと…!」
「二度も言わせるな!!」
亮治は切れ長の瞳をさらにつりあげ、鬼の形相で原田をにらむ。
眼鏡越しでも、女性には十分恐怖を与える冷たい視線だった。
本当に医者がする表情なのかと、原田はおびえる。
「これでも、僕は科捜研にいた事もある。僕に嘘は通じない。知り合いの警察官に
君の事はもうすでに調べてもらってる。佐竹は君に交際を迫っていて、君はそれをじらして今までも色々と彼に悪事を働かせてきたんだろ。自分より人気の看護師を犯させたり嫌いな患者に違う薬投与して殺させたり。」
それを聞いた原田の表情は徐々に青ざめてこわばっていく。
「…ぁ…ぃ…だって…私っ…。」
「証拠なら、揃えてあるさ。証言もある。元々このために僕は…まぁいい…。
そのおかげでずっと追ってた事件の答えが見つかったんだから…。」
原田はその場に力なく頽れると、肩を震わせて泣き出した。
「泣いても、君の罪は流れない…。」
亮治は唇を噛んで、再びICUに目を向ける。
「もえ…っ…絶対…助けるから…っ。」
ボソっと小さく呟いて、心電図の波長をガラス越しに確認した。
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