勇霊

鈴音

拾った剣との冒険

俺が洞窟で拾い上げた剣、それにとり憑いていたのは、ジーンと名乗る幽霊だった。


「はっ、こんな見え透いた罠に嵌る勇者がいるとはなぁ…えぇ?どー見ても罠だろ、こんなの。なんでわかってて拾ったんだ?勇者様よぉ」


うるさいなこの剣…さっきからこの調子で、何度も何度も話しかけてくる。しかも、剣が手から離れてくれないし、切れ味がやけにいいせいでそのまま手放したくないのもまた事実なのがムカつく。


「まぁいいや。この先によぉ、古代の龍?だかなんだかってのがいる。そいつの呪いのせいで俺はこの洞窟から出られねぇ。そこでだ。俺の力を貸してやる。お前のその馬鹿みてえな筋肉と俺の技、組み合わせれば龍なんかイチコロだ。どうだ。手を組まねえか?」


姿は見えないが、音が左右に振れていることでそこにいることはわかる。うっとおしい。それに、こんなやつが本当に役立つかもわからない。現に、この洞窟のモンスター程度なら一振で斬り殺せるんだから技なんかいらないだろう。


「そうは言うけどよぉ、ここにいるのは逃げてきたやつらだぜ?この先に行けば行くほど強えモンスターが出てくんだ。お前程度じゃあすぐに行き詰まるぜ?」


剣が勝手に揺れる。おそらく、ジーンが動かしてるのだろう。剣先がぶれたせいでモンスターを無駄に苦しめてしまった。俺は虚空を睨む。


「おいおいそんな顔するなって。所詮はモンスター、バケモンだぜ?苦しめようが何しようが俺らにゃ関係ねぇよ。」


そうは言うが、モンスターも同じ生き物。苦しめたくはない。だが、俺たちに危害を加えるなら殺す。勇者はここの塩梅が難しい。


「まぁまぁそんなごちゃごちゃ堅苦しく考えるなって。ほれ、新手だ。…身なりもいい、動きもいい。こっからお前一人じゃあ苦しくなるぞー?」


イタズラ好きのガキのように喉を鳴らして笑うジーン。その声がやたら響いてムカつく。実際、やつの言う通りモンスターも強くなって、苦戦を強いられた。


「ほらほらー。意地張ってないで俺の力を使えよー」


傷跡の多いモンスターの死体を前に、肩で息をしながら汗を拭う。きらりと光る指輪を見つけて指にはめると、途端に体が軽くなった。バフ魔法のエンチャントがついた指輪だ。


「おお、おめっとさん。…んんー。そろそろかな。ボスが来るぞー。気を引き締めろー」


だんだんとひらける洞窟と視界。その先にいたのは、約5m程の翼のない龍だった。


「さー勇者様ー。頑張れー」


さっきまで身体を貸せとうるさかったジーンが、茶々をかけるだけになった。しかも、何度も剣を勝手に動かしたり、剣先を地面に突き刺して動きをとめたり。ポーションなどで傷を誤魔化しつつも、少しづつ動きにくくなってきた。


「頃合かねぇ…どーだい勇者。もう一度契約と行こう。俺の名前はジーン。この剣の呪いとして生まれ、この世界最高の剣技を与えられた幽霊。お前が俺に身体を貸してくれるなら、あの龍を一撃でぶっ殺してやる。ついでに、お前の彼女も沢山作ってやる。どうだ?」


…魅力的なお誘いだが、彼女は要らん。けど、これ以上俺は戦えない。だから…


「だから?」


だから、契約するぞ。俺はどうすればいい?


「何もしなくてもいい。ただ、目を閉じろ。」


…はぁ。息を吐きながら、目を閉じる。龍も大きく息を吸い、ブレスを吐こうとする。


「…そしてぇ!龍が口を開いたその瞬間、俺様がかっこよく登場してそのブレスを真っ二つだぁ!」


ふわりと体が軽くなる感覚、自分の体を見下ろす形となる。手足のない幽霊になった実感が湧いた瞬間、自分の体だったものが勝手に動き、龍のブレスを残断した。


「おおー!いい身体してんなぁ勇者!よし、鎧動きにくいから脱ぐわ!…おお!何これ!シックスパックじゃん!腕もふっと!この剣より太いじゃん!アレもでけえ!この洞窟出たら女いくらでも作れんな!やったぜ!」


ジーンは俺の体を見て大興奮だった。やめてほしい。


「やめてほしい?…そっかぁ、ま、これはあんたの身体だ。契約してる間は指示に従ってやるよ。んで、あの龍を苦しめず、一撃でぶっ殺しゃぁいいんだな?」


そうだ。…出来るのか?


「世界最強の剣士、ジーン様にできないことは無い!行っくぜぇーー!!」


びきっと、地面が割れる程の踏み込み。一瞬にして姿が掻き消えた加速と共に跳躍し、龍の頭に剣を振り下ろす。


「ありがとよ、古代の龍。俺を作ってくれてな」


硬い鱗をものともせず、龍の頭をかち割り、その勢いのまま胴体までを真っ二つにする。1度、勢いよく血が吹き出し、それから遅れて2つになった龍の体が倒れる。返り血すら浴びず、龍を一撃で葬ったジーンは大人しく俺に体を返してくれた。


「よし。洞窟から出るぞ!そして、俺も一緒に冒険に出る。異論は無いな?」


…正直、コイツと一緒は気が引ける。だが、この強さは本物だ。俺は、ため息をつきながらこいつを鞘に納めた。


「んじゃ!次の街に出発だー!!」


行先はまだ決まってないけどな。


…そんなこんなで、やたら強い謎の幽霊、ジーンと俺は旅することになった。こいつに乗っ取られたあとは凄まじい筋肉痛になったり、何故か大量にモンスターを呼び寄せたりと、トラブルメイカーでもあるけど、気の置けない友人として、こいつを認められたころには、楽しく冒険ができた。


「これからもよろしくなぁ、相棒?」


付き合いきれないが、まぁ、それも楽しいからよしとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇霊 鈴音 @mesolem

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ