嫌な予感ばかりが当たるのは、嫌な想像しかしないからだ。

 普通にベッドの上で目を覚ました。

 ペトーと話をしたのが夢だったのか、それともどうにかしてあのよく分からない場所から戻ってきたのかは分からない。ただ、夢にしてははっきりと覚えているような気がする。

「——シェラ?」

 ベッドの上にシェラの姿はなかった。何処かに出かけているのだろうか。まぁ、今はシェラに勝手に危害を加えようものなら『僕の所有物』を損なったということになるから、(そういう言い方は好きではないが)その意味ではシェラは安全とも言えるかもしれない。


 これからどうするべきか、それが明らかになったわけではない。

 でも、神格に啖呵を切ったのだ、何もしないわけにはいかない。


 とりあえず起き上がって、シェラを探すことにした。部屋の扉を開けると、そこには兵士が立っている。

「あの、シェラを見ませんでしたか。褐色肌の、女の子」

「私は見てませんよ。どうしたんです?」

「いえ、目が覚めたらいなかったので。分からなければ、大丈夫です」と言ってその場を立ち去ろうとしてから、少し考えて足を止めた。「ところで、野暮なことを訊くんですが」

「はい?」

「あなた、一晩中ここにいましたか? それか、誰か昨日の夜、ここにいました?」

「え? どうしてです?」

 夜、僕がこの部屋から出て行くのを見ましたか? なんて変な質問をしようか迷って、やっぱりやめた。

「いえ、何となくです」

「昨晩は急な作戦があったとかで、当番が変わりましてね。ここの当番が別のところで任務に当たっていたという可能性もあると思いますよ」

「急な作戦?」

「私は詳しくは知らないですけどね」

「作戦ということは、シューベル将軍に訊いたら分かりますかね?」

「いえ、今回の作戦指揮は、グラン将軍みたいですね」

「グラン将軍が……? そういうことはよくあるんですか?」

「結構珍しいですね。でも、火急の極秘作戦だとかで、人を集めてましたよ」


 それはそれで気になる。

 けれど、とりあえず今はシェラを探すとするか。


「ありがとうございます。あの、もうひとつ質問が」

「なんです?」

「ターミナル出身の人たちがいる場所って、どこにありますか?」


 もちろん、シェラの行きそうな場所に心当たりがあったわけではないが、部屋を出て何処かに行くとしたら、話が通じる人がいるところだろう、と何となく思ったのだ。

 言われて向かった先は、想像していた通り牢屋のような場所だった。基本的にはターミナルから連れてこられた男手が多く、恐らくは大総統府での力仕事を任されているのだろう。

「シェラを見ませんでしたか?」と、僕はシェラの言葉で訊ねた。ターミナルの出身だからといってシェラの言葉が通じるとは限らなかったが、シェラのことを知っている人ならこれで充分のはずだ。

「見たよ」と、牢屋の中から別の男が応えた。

「いつです?」

「昨日の夜かな。何人かの男の人に声を掛けてた。何か、秘密の作戦の相談をしたいとか言ってたな。それで、そのまま何人かを檻から出して、どっか行っちまった」

「秘密の作戦?」

「そう、俺も眠かったからあんまりちゃんと聞こえてなかったんだけど、何だったかな——」

 そして、牢屋の男は言った。


「——そうそう、ヴェンドヴルムの使者を暗殺する、とか言ってたな」

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