2.ラルフ(363)
そいつの顔面部分と思われる平べったな部分に拳を振るうと遠心力により内部の肉が潰れたようで、10ほど空いた眼窩から粘った液がいっせいに吹き出した。膝を曲げると内側に収納されたサーベルが飛び出す。持ち手を握るのと引き抜くのは同時、返す刀でとどめを刺す。
樹のように枝分かれしている何本もの腕(奴自身の認識としては足なのかもしれない)がビクビクと断続的に震えた。数分経ってようやく動かなくなったのを確認し、俺はコクピットハッチを開けた。ようやく煙草を吸うことができる。抜けるような青空に煙が雲のように流れて消えていく。汗ばんだ肌に心地いい風が吹いた。これでプールで泳げりゃ最高だけど、あいにく俺の愛機である搭乗式拡張体QA07の足元にはさっき倒した奴の体から流れ出る硫黄臭のきついオレンジ色の液体が巨大な水溜まりを作っている。さすがにあんなところで泳ぐわけにはいかない。モテないからね。
今日の討伐対象は少し多かったけど揃いも揃って同じような姿形ばかりでなんてことはなかった。この侵略種はもう何回も戦っているから壊し方はよく知っている。どれだけ遠い場所からやってきたのか知らないが、なんでこいつらはわざわざ俺に殺されに来るのだろう。搭乗前の研修でその辺りの背景を聞いたような気がするが覚えちゃいない。地球外生命体ってやつはそこまでしてここが欲しいものかね。
ところで、QA07の07とはつまりアップデート回数の事らしい。QAに俺が最初に乗った時は03だった。それから4回の更新があったらしいがまったく気付かなかった。確かになんだかんだ操縦によるフィードバック負荷は最初より軽くなったし機能も増えている気がする。
「センパーイ。そっちも終わったんなら、お茶でもしませんかー」
コクピット備え付けの受話器を持ち上げ、外線機能を使って僚友に声をかけた。そう、この電話もいつのまにか追加されていたものだ。機体から出ずとも連絡が取れて便利なのでありがたく使わせてもらっている。しばらく返答を待ってみたが返事が返ってくることはなかった。俺と同じ搭乗式拡張体に乗っている人間はあと2人いる。元々同じ病院にいた顔見知りであり、今では数少ない同機体乗りだ。たまには顔をつき合わせて話をしたいのだが、最近は呼びかけても返事がある時の方が少ない。
少し寂しい。
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