寝てるうちに飛ぶ
梅緒連寸
1.エリハ(32)
「恐ろしい化け物がいるんだ。
そいつらには銃や刃物はもちろん大砲ですら傷をつけることはできない。ついたとしても、子供が作る擦り傷なんかと同じでいつのまにかすぐ治ってしまう。まっしろな骨みたいなガワのくせ人の肌みたいに生きて再生するんだ。しかもそいつらは寝ないし食わない。おかしいだろ。化け物とはいえ生きてるのに、生き物と同じことをしない。いや正確にいうと食うことはする。あいつらの食い物は空から落ちてくる。あいつらと似たような化け物が落ちてきて、砂地に墜落する。そしたらすごい勢いで落ちてきた奴に向かって、襲いかかるんだ。落ちてくる奴らは動きが遅くて弱い。どんなに数が多くて戦いが長引いても最後には必ずあいつらが生き残る。動かなくなった相手を、あいつらは残らず食って平らげる。本当に何も残らないんだ、骨のかけらすら。一部始終を見た時には震えが止まらなかったよ。おぞましいのに目が離せないんだ。見ているうちにだんだん変な気分になってくる。なんていうか、なんと表すべきか……化け物を食ってるのが、自分であるような気になるんだ。化け物を食ってるのは俺。化け物をぶち殺したのは俺。砂漠をいつも彷徨いてるのは俺。だから、あいつらがいる限り、俺もそこにいるんだ。ひどい話だと思わないか。永遠に続くことなんて、俺には耐えられないのに。俺が欲しいのは終わりなのに」
話しながら組み上げた銃を束の間太陽にかざして眺めると、張り詰めたように表情を強張らせていたエリハはようやくほっとした顔になり、そのまま銃口をこめかみに当て、撃ち抜いた。
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