第22話
「それで、
俺はようやく本題に入った。今日はそれを聞きに来たのであって、お茶を楽しむことが目的ではない。うまいけど。
「えと、最近、変わったこと、だよね?」
事前に
「遊びには、たくさん、誘われるかも。前よりも」
ふーむ?
「先週のカフェではどうだった?」
「うーん、すごく、喋ってたよ。黙ってると、不安みたい?」
不安か。いったい何が不安なんだろう。
「あとね。途中で、ちょっと、用事があったみたいなんだけど」
「すごく、謝ってた。すごく。びっくりした」
「あー、俺の方にも聞こえたな」
「ちょっと、怖かったかも……」
控えめな言葉。ちょっと、では無かったのかもしれない。階段の上で、俺が感じたように。
これ以上冬野の情報は無いようだった。やっぱり学校で話せばよかったんじゃないだろうか。何の会だったんだこれは?
深く背もたれに寄りかかると、ちらりとスマホを確認した。そろそろか。プランのスケジュールの時間が迫っている。今日も謎の短時間勉強だ。
秋月はどうするつもりなんだろう。たぶんだが、プランのことは春日井にまだ話してないよな。途中で勉強会をしたいとでも言ってるのか?
視線を送ってみる。しばらく気づかれなかったが、ようやく秋月もこっちを見た。
どうするんだ、と目で語ってみたが、きょとんとした顔を返された。何だよかわいいな。じゃなくて。
「あっ、わたし、お手洗い行ってくるね!」
元気よく言うと、春日井は逃げるように去っていった。元気よく言うことでもないと思うが、俺たちの様子に気づいて気を使われたようだ。うーん、察しはいいのだが、根本的な部分で勘違いされてるからな……。
「なに。変な目で見ないで」
「変な目ってお前……秋月だって前に視線で語ってきただろ」
「月曜の話? あれは後で話がある以外に無いでしょう」
「じゃあ今はスケジュールの話しか無いだろ」
まったく、一方的に理解を要求してくるんだから困る。やれやれ……なんて思っていたのだが、どうも様子がおかしい。あれ、秋月まだ分かってないぞ?
「待て、このあと勉強のスケジュール入ってるよな?」
「入ってない」
「あー……」
そうか、全く同じとは限らないよな。被ることが多かったから勘違いしてた……。
ちゃんと確認しないから効率の悪い会話をする羽目になる。なんて幻聴が秋月の声で再生されたが、実際には何も言われなかった。優しさが残っていて助かった。
お互いのスケジュールを確認してみると、どうも秋月の方はかなり量が減っているようだ。成績予測が改善しているからか。予測に応じて変わるんだな。
「ミオがいないうちに聞きたい」
と、秋月が身を寄せてきた。
「今の人間関係の問題が、冬野さんの成績低下に関わってる可能性はない?」
「え、どうしてそう思う?」
唐突だな。成績低下が予測されて矯正プランが課され、それで問題が起きたんだろうから、関係しているというのはその通りだろう。だが、秋月の言い方では因果関係が逆――つまり、問題が成績低下を起こしたというように聞こえる。
「呼び出された三人は、もともと成績に問題があったわけじゃないでしょう?」
「まあ、そうだな」
それは思っていた。全員並以上はある。
「なら、勉強以外で大きな問題があるんじゃないかと思ったの」
「んー、確かに、今のままだと冬野は成績落とすかもな……」
そう予想できるぐらい、あの時の様子は異常だった。勉強どころじゃなくなっている可能性はある。
もし秋月の仮説が正しいなら、成績予測を改善するには人間関係の問題を解決するのが近道ということに……いや、待てよ。
「でもそれなら、
プランは問題を解決する方向に向かうはずだ。だいたい、問題は出ているのに、成績予測は改善し続けているのだ。予測が本当に当たっているのかという懸念はあるが……。
「……。それはそうね」
認めざるを得なかったのか、秋月は不服そうにしながらも頷いた。
「でも、無関係ではないはず。もっと調べてみるべき」
妙に押してくるな。女の勘ってやつなんだろうか。
うーむ、その勘の精度が高ければ、本人に直接いろいろ聞くべきかもしれないけどなあ。正直、激しくやりたくない。自ら地雷を踏みにいくような行為だ。
とりあえず地雷は踏まないようにして、分析で何とかしたいところだ。一応、成績予測が改善しているといういい流れはある。理由は分からないにしても。
しばしの沈黙のあと、秋月が出し抜けに言った。
「明日カラオケに行くから」
「そうか」
何の報告だろう、と首を
「あなたと一緒に」
「え? なんで……」
待て、わざわざ説明させるな効率悪いみたいな目で見ないでくれ。ええと何故急に誘ってきたかと言うと……。
「あ、ああ、目的を絞って出かける話か」
「そう」
「分かった。って、カラオケ?」
あのカラオケ? 陽キャがこぞって集まるという?
正直、あまり行く気はしない。陰キャにカラオケなんて、猫に小判みたいなものだ。いや、ちょっと違うか。とにかく相性は最悪なのだ。
だが秋月にじとっとした目で見られ、俺は反論を諦めた。これは絶対聞き入れそうにない。今なら分かる。
それにまあ、秋月ならいいか。ふと、そんなことを思った。
「も、もう、終わった……?」
遠くからの声に、俺は視線を向けた。春日井が、テーブルから微妙な距離に立ち尽くして、俺たちの様子をちらちらと
「悪い、俺もトイレ」
てこてこと歩いてくる春日井と入れ替わりに、俺はスケジュール消化のために席を立った。
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