先輩に告れない幼なじみが俺に相談してくるのだが・・・

最時

第1話 あいつ

「お疲れ様です」

「お疲れ様」


 陸上部の帰り、一緒に電車に乗った先輩と別れて駅を出て自宅へ向かう。

 夕方、帰路についている人達で賑やかな通りを歩いていると、後ろからいつもの小走りが聞こえてあいつが顔をのぞき込む。


「たまには待っててくれても良いのに。かわいい幼なじみを置いて先に帰っちゃうなんて」

「自分で言うことか。お前、違う電車の時もあるだろ」

「そういうときは私を駅で待っていても」

「するわけねえよ。気持ち悪い」

「大丈夫。ストーカーとか言わないから」

「あたりまえだ。今日は絡んでくるな」

「別に。普通だよ」

「・・・」

 何かあるな。と考えていると


「ところで先輩元気」

「誰」

「わかってるでしょ。青木先輩」

「ああ。元気も何もお前だって今日会っているだろ」

「先輩と種目違うし、どうかなって」

「それを聞いてどうするんだ」

「どうするって、そこ聞くとこ」

「聞くね」

「これだからデリカシー無い男は嫌われるよ」

「いいよ」

 いつも詰められているいるがこの話題では勝てる。


「少しは青木先輩を見習ったら。優しいし、かっこいいし、速いし、成績もトップクラスだって言うし完璧じゃない」

「そうだな」

「私大好きなんだけど」

「それはもう何回聞いたかわからない」

「先輩、彼女いないんでしょ」

「そう言ってたよ。自然に聞き出すのに神経使って疲れた」

「何でだろ」

「自分で聞いてくれ」

「無理に決まっているじゃん。先輩と話すの凄い緊張するんだから」

「誰が見てもそれはわかる」

「でしょ。だからかわいい幼なじみを助けると思ってお願い」

「はあ~ 何を」



 就寝前、布団の中であいつのことを思い出す。


「はあ~ 何を」

「もうじきバレンタインじゃない。告白しようと思うの」

「何をしたんだ」

「懺悔じゃないから」

「半年前からするって言ってなかったか。好きなのは伝わっていると思うし。今更な感じがするけど」

「つ、付き合ってもらう。男と女のとして」

「なんて言い方を。昭和か。何に緊張しているんだ」

「告白するって考えただけで無理。ねえ、どうすれば良いと思う」

「俺に聞くか」


 まったく。

 なんだかんだ言って俺もあいつが好きなんだと思う。

 一緒に帰れない日は少しさみしく思ってしまうし、振り返ってしまう。

 あいつの相談も本当は嬉しく感じてしまう。

 感づかれているのかな。

 あいつを助けてやりたいとも思っている。

 先輩があいつのことをどう思っているか知らないけど、さっさと告白しないから俺もどうすることも出来ないし、なんかどんどんあいつのことが好きになっていく感じがする。

 バレンタインで決めてくれよ。

 いや無理か。

 どうする。

 あいつも相当深みにはまっていると思うが、俺もかな。



 バレンタインデーの帰り。

 いつもと変わらない町並みだが落ち着かない。

 ヒカル告白できたのかな。

 後ろが気になって仕方が無い。

 後ろ向きに歩こうか。

 そんなことを考えていると


「ツバサ、待ってよ」

「お疲れ。ちゃんと告れた」

「無理。だからこれはツバサにあげる」

「んっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先輩に告れない幼なじみが俺に相談してくるのだが・・・ 最時 @ryggdrasil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ