第32話 凛さまの固い意志

「御神体の眠る場所ですか?」



 夜中、「老人ホーム」に呼び出された私は、集まっていた除霊師のお爺様に尋ねられました。今日は熱帯夜でした。どうしてこう極端に暑い日とか寒い日に呼び出すのでしょうか。


「見当はついております。明らかに邪気が強い一帯がありますので。幸い、学校生活で近付くのはほとんどない場所ですから邪気にてられる心配も無さそうです」


 私立皐ケ丘学園高等学校の校舎は、空から見下ろすと巨大な「H型」をしています。その左上にあたる部分の外側は鬱蒼とした森になっていました。教室移動でその近くの部屋に入ったとき、外から強烈な邪気を感じました。あの桁外れの気配は間違いなく御神体……いいえ、今は「大魔神」と呼ぶべきでしょうか。


 後に古い地図で調べてもらうと、そのあたりには昔、神社があったことがわかりました。きっとそこに今も大魔神は眠っているのです。私が直接そこまで入り込めれば大魔神を鎮めることもできるかもしれません。


 ですが、あの森に校舎から入る道はありません。強いて言うなら屋上から飛び込むくらいのものです。迂回して地上から行くにしても道らしい道があるようには見えませんでした。まともな道すら開けていないあんなところに入れば、どれほどの悪霊に襲われることでしょうか。さすがの私でも、その危険を冒して森の中を調査し、大魔神の眠る神社の跡を探しだすのは不可能と思えました。



「例の霊力を持った娘が近付かなければいいんじゃろう? どうにか退学にでもして別の学校に行ってもらうとかできないもんかね?」



 品の無い発言を平気でする老人も中にはいます。ですが、今の発言は私を怒らせました。


「今のは撤回してもらえませんか!? 仮にも誇り高い除霊師の方が仰るような言葉とは思えません。それに、誉川さんは私の友人です。彼女を悪く言うような発言は慎んでいただきたいですね!」


 くだらないことを言った老人は、私の剣幕に気圧されたのか、そっぽを向いて立ち去って行った。


 たしかに、大魔神を鎮められれば話は早いのです。ですが、そう簡単にはいきません。ホメ子さんを近付けさせないのはたしかにもっとも効果的な方法といえました。ですが、そのために彼女の学校生活を壊すなんてとんでもないことです。


 私が守ればいいだけの話なのです。私がホメ子さんを守れば世界も救われるのです!

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