第33話 ウララさん、高みを目指す
「ねぇ……イサミん?」
「どうした、ウララさん?」
「ええっ…と、ごめんなさい。なにか聞こうとしたのに忘れちゃった」
「はははっ、たまにあるよね、そういうこと。また思い出したら話してくれ」
「うん、そうする」
彼とはこんなやりとりをもう何度も繰り返していた。あの6月の下校時、コンキスタドールに襲われた際に助けてくれたのは間違いなくイサミんだった。彼はあの時が止まった空間で私よりはるかに強い力で戦って見せた。つまりは、彼も「適応者」のはずだ。
けど、その話に触れてくる気配がまったくない。あの時のイサミんは変な仮面を被って「デメキン仮面」とか名乗っていた。まさかと思うけど、あれで私に気付かれなかったと思っているのだろうか。いやいやいや……さすがにそれはないと思う。
きっとイサミんは自分が「適応者」と知られたくないのだろう。レジスタンスの人の話でもこの学校に私以外でそういった人がいるとは言っていなかった。私は「異能力」を歓迎して受け入れたが、必ずしも誰もがそうとは限らない。彼はきっと自分の力を隠したいのだと、そう思うことにした。
イサミんの話をレジスタンスには伝えなかった。考えてみれば、異能力をもっていることによって逆に危険な目に合う可能性もあるのだ。彼が望んでいないのに危険に巻き込むのはやめておこう。それでも、あのとき助けてくれたのは本当にうれしかった。ホメ子さんがいなかったら惚れてたかもしれない……。
先日、レジスタンスの人と会った時、嫌な情報を耳にした。この学校の……どうやらホメ子さんがコンキスタドールの標的になっている、という話だ。たしかにイサミんに助けられたあの戦いでもそんなことを言っていたような気がする。
さらにもうひとつ、やつらに出会った時、金色のブローチをした男がいたら逃げるように言われた。通称「金の
だけど、逃げろと言われても、私が逃げたら残されたみんなは……ホメ子さんはどうなるのよ。この前の戦いで私は自分の未熟さを痛感した。もしも、「亀男」とかいう強いのが襲ってきたらきっと私では勝てないだろう。けど……、他に誰もいないんだったらやっぱり逃げられない。
ひょっとしたらまたイサミんが助けてくれるかもしれないけど、あんまり彼に期待し過ぎるのもなんか違う気がする。
そうか、私が今よりもっと強くなればいいのか!
誰が襲ってきても追い返せるような……もう二度とこちらの世界に来たくなくなるような強さを身に付けたらいい。最近は勉強に必死でちょっとサボってたけど、異能力の訓練もしっかりやらないとね!
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