第26話 一緒にいたいウララさん
6月、雨と湿気が多い季節だけど、今日はすっきりと晴れ渡っていた。6限目の授業が終わり、私は下校の準備をしていた。ちらりとホメ子さんの様子を窺うと、烏丸くんと谷地田くんと一緒にいてなにやらお面の話をしていた。彼らはたしか「カラス」と「テル」で通っていた。
3人が談笑しながら教室を出ていくタイミングで、ホメ子さんに話しかける。これでとても自然に4人目として話に参加できた。他の生徒と一緒でもいいから私はホメ子さんと一緒に下校したいんだ。
私たち一年生は4階に教室がある。下の階へと降りている間にリンさんが話に加わっていた。彼女はいつもホメ子さんと一緒にいるような気がする。まさか、ひょっとして……いやいや、「その」気配があれば、話し方や視線で気付く。女性同士なら尚更だ。リンさんにそうした雰囲気は一切ない。
廊下を歩いていると、いつの間にか「イサミん」こと滝本くんもこのグループに加わっていた。彼もよくホメ子さんと一緒にいる。
スリッパから靴に履き替えて外へ出る。最近は雨が多くて、道端もぬかるんでいたり水たまりもあるので、私は履き潰したあまり可愛くないスニーカーを履いている。
運動場では、サッカー部とラグビー部が熱心に練習をしていた。こちらから見て一番奥の直線を走っているのは陸上部かしら……。
私たちは全員帰宅部なので、運動に励む生徒の姿を横目に下校する。途中、烏の群れを見つけたホメ子さんは「カラス」を連呼し始めた。鳥の烏なのか、烏丸くんのカラスなのかわからなくなるような会話を交わしている。
私もあんな感じでホメ子さんと話をしてみたいが、実際に話すと意識して緊張してしまうのだ。
そんなことを考えている時、例の感覚が私を過った。
『ここだけ空間が切り離されている!? またやつらが来たのね!』
私が周囲を見まわすと、ちょうど私たち6人を挟むように前に1人、後ろに1人、黒のダイバースーツの姿があった。前にいるのは男、後ろにいるのは女のようだった。女性でよくこんな体のライン見え見えの服装できるわね?
「高エネルギー反応はここにいる生徒か?」
「そこの真ん中にいるちっこい女から高いエネルギー反応がある」
ダイバースーツ……「コンキスタドール」が指している人は明らかにホメ子さんだった。
『こいつらは! 私の前でホメ子さんに手を出そうってわけぇっ!?』
この前と同じだ。こいつらと戦うのに余計な問答は必要ない。やつらが動ける人間はいない、と油断している今が最大最高のチャンス!
私は高速移動でまずは正面の男の懐に飛び込んだ。男はゴーグルから下だけ驚いた表情を見せて私の方を見たがもう遅い。両手で男のみぞおち付近に渾身の衝撃波をお見舞いしてやった。吹っ飛んだ男は正門に激突してその場に倒れる。
どんなもんよ! 次は後ろのライン透け透け女だ!
そう思って振り返ったとき、その女は私の真正面にいた。胸のあたりにやつの手が触れている……マズい。
そう思った瞬間、私もさっきの男同様に正門まで飛ばされた。なんとか激突する前に空中でブレーキをかけたが、今の衝撃波はかなりの威力だった。
「この学校に『適応者』がいると情報はあったけどあなたなのね?」
「ふん、わかっててくるなんてどういう神経してるのよ!? 痛い目に合いたいわけ?」
「ここにいるちっちゃなお嬢さんはとても強力なエネルギー源なの。たとえ邪魔者がいてもほしくなっちゃうくらいにね?」
女はホメ子さんに触れようと手を伸ばす。私は一度、宙に浮いた後、加速して女の元へ突進した。だが、相手はひらりと身体を返してそれを躱した。
「この痴女め! そんな恰好してて恥ずかしくないの!? 汚らわしい手でホメ子さんに触るな!」
私が吠えるのに対して相手の女は、口元で余裕ある笑みを浮かべた。
「威勢のいい子ね。けれど、力の使い方がまだまだ荒っぽいわよ? 才能はありそうなのにもったいないわね?」
この女の最後の「ね?」だけが私の真後ろから聞こえた気がした。そして視界から女は消えていて、振り返るとそこに姿はあった。私は咄嗟に下がって距離をとった。けど、その背後にまたこの女は現れる。
「あはははっ! 力の使い方がお子様ね。そんなんじゃとてもお友達を守れないわよ?」
女は私に向けて衝撃波を放った。私はシールドを両手で張ったけど、それは一瞬で突き破られて私は飛ばされた。この女……今までのやつとは比べ物にならないくらい強い……。
仰向けに倒れた私を見下ろすように女は、正面に移動してきていた。
「その才能は使えそうだけど、レジスタンスの仲間なんでしょ? 邪魔だからここで死んでもらえる?」
女は私に向けて両手を突き出した。ここで強い衝撃波をくらったら地面と挟まれてまともにダメージをくらう。
私がやられたらホメ子さんを守れない……。誰か、レジスタンスは近くにいないの? 私より、ホメ子さんを助けてよ!
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