第7章 宇宙人さんも参戦しませんか!?

第25話 テルは魚人を彫る

「変なお面だな……、ホメ子さんでも褒めてくれるか際どいレベルじゃないか?」


 俺のデザインした木彫りのお面に正直な感想をくれたのはカラスだった。これは美術の授業で作ったものだ。俺とカラスは下校前に教室内で軽く話をしていた。


 この学校では芸術系の授業が選択制で、美術・書道・音楽・ダンスのいずれかからひとつ選ばないといけない。暗殺家の俺にはどれも興味ないものだった。だが、美術の授業はその特性上、様々な道具を学校に持ち込める。そこに利点を感じた俺は美術を選んでいた。


 木彫りの造形の課題があり、俺はたまたまテレビに映っていたどこかの先住民族のお面を真似て作ることにした。刃物を扱うのは恐らく誰よりも得意のはずだ。そのため、お面の完成度もかなり高いのだが、元にしたデザインが個性的過ぎるがゆえに誰の理解も得られなかった。――というか、過去の俺に問いかけたい。なぜこれを元に選んだ? これはなんだ……半魚人か?


「テル、たしか美術の課題ってタイトルをつけて提出だったよな? そのお面はなんてするんだ? 『サハギン』か?」


「サハギンか……、『カエルさん』よりはいいかもしれんな」


 俺も普段は同級生とこんなくだらない会話をしながら高校生活を送っている。これは別に演じているわけではない。依頼をこなすときだけ「暗殺家」としてのスイッチが入るのだ。


 特にカラスは一緒につるむことが多い同級生だった。成績こそかなり優秀だが、それ以外に特別目立ったところがある男ではない。俺となにか趣味が合うとかそういうのがあったわけでもない。ただ、なんとなく一緒にいて、話していて心地がいい相手ではあった。



「なんですか、それ!? 海外旅行のお土産ですか!? なかなか個性的なものを買ってきましたね!」



 誉川……ホメ子さんが俺のお面を見て大声でそう言った。カラスがその横で俺が美術の課題で作ったものだと説明してくれている。


「テルくんは芸術の才能もあるんですね! この細かな模様を手で掘ったなんて信じられません。きっと然るべきコンテストへ応募すれば大賞がとれますよ!」


 たしかに模様とかは手が込んでいる。俺は手先が器用だからな。


「コンテストは知らんが、とりあえず美術の評価をもらえたら満足だよ」


 俺はこの仮面にもう少し手を加えるため家に持って帰ろうとしていた。美術の成績なんかどうでもいいのだが、手を付けると半端にやめられないのが俺の性格だ。


 この学校は廊下で走らないようするため、校内では便所サンダルのようなスリッパに履き替えなければならなかった。1階まで降りて、自分の靴を履き、校舎を出る。特に約束していたわけではないが、カラス、ホメ子さん、イサミん、リンさん、ウララさんが一緒になっていた。


 今日の授業の話、友人の話……いたって普通の会話をしながら俺たちは運動場の横を歩き、正門へと向かっていた。正門周囲に何羽かのからすがいる。


「カラス! 烏がいますよ! 烏ってとても知能が高いんです! 言葉を覚えたり道具を使ったりもできるそうですよ! いつか人間の友達にもなれるかもですね!? カラスと烏が友達になれますよ!」


「ホメ子さん、『カラス』を連呼するな。オレなのか烏なのかわからん。それにとりからすは読者的にも優しくない。混乱する」


「カラスがなにを言ってるかわかりませんが、私はまだ鳥とは言っていません! 烏とは言いましたけど!」


「烏なんてどこにでもいるだろうになんでそんなに嬉しそうなんだか……」


「カラスの前髪は烏に似てますよね! 烏に似ているからカラスは烏て呼ばれるようになったんですよね!?」


「頭おかしくなるからそのカラスマシンガンを止めてくれ」


 誉川はなにが楽しくてこんなに騒いでいるんだ? この女はなんでもかんでも無理やり褒めるしいつも騒がしい。ただ、大金を払ってでも抹殺したいような女には見えない。誉川に一体なにがあるというのか……。


 いや、詮索は不要だ。隙を見つけて始末する。それだけだ……。だが、イサミんが近くにいるこの場では難しいだろうな。


 その時、俺の作った、正確にはまだ作りかけの仮面が地面に落下した。


「おいテル、大事なサハギンが落下したぞ?」


「ああ、わかってるよ。こんなもんが拾得物で届いても警察が困るからな。しっかり拾って帰るさ」



「みんな! 見て下さい! あそこっ! U.F.Oですよ!」



 普段から騒がしい誉川がさらに大きい声でそう言った。俺たち以外の周りにいた生徒も一緒になって彼女が指差す空を見上げる。指先にはただただ夕暮れ時の空が広がっているだけだった。


「俺にはわからんな。どの辺だ、ホメ子さん?」

「ええっ!? ホメ子さんU.F.Oどこどこ!?」

「ごめん、カラスくん。『ユーフォー』ってなんだろうか?」

「えっ!? イサミん、U.F.O知らないのか? むしろそっちに驚きだぞ!」


「見失いました……。さすが宇宙人さん。私たち地球人が真っ青の超高速移動です。私から金熊賞を差し上げたいです」


「ホメ子さん、それ映画の賞だからな?」


 カラスが一応ツッコミを入れている。ただ、ホメ子さんはボケで言っていないんだろう。

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