第24話 すれ違い過ぎる3人
「ああ、親父……、今ちょっと話せるか?」
『お前から連絡とは珍しいな? 一体どうした?』
俺は誉川の殺しの依頼を受けたとき同様に、夜の公園で親父と話していた。公園の桜の花はすべて散り葉桜へと変わり始めていた。地面には、散った花びらが風化して茶色くなったものが散見された。あまり、掃除がされている公園ではないようだ。
「今回の依頼、少し妙なものを感じる。依頼元や『誉川 芽衣子』について調べてもらうことはできないか?」
わずかな沈黙の後に親父の返答があった。
『我々【執行人】が依頼主について詮索することは許されん。その目的も同様にだ。どうした? お前らしくないぞ』
「依頼の期間が『高校卒業までに』というのがそもそもおかしい。これまでこんな長期的なものはなかった」
『猶予期間があるなら楽でいいではないか。お前も高校生活を楽しみながらゆっくりヤればいい』
「それにだ……。俺の仕事に関わりあるかわからんが、邪魔者がいる。依頼元が無理ならこっちの方を調べてくれないか?」
『ほう……邪魔者か。話してみなさい』
「同じクラスの『滝本 勇』という男だ。適当にはぐらかしたが、明らかに俺が誉川を狙っていることに気付いている。そして、只者ではない殺気を放っていた」
『よかろう、その男については調べてみよう。だが、忘れるな。我々、暗殺家に感情などいらん。機械のように仕事をこなす、それだけでいい』
「わかってる。今さら親父に言われるようなことじゃないよ。じゃあな」
俺はスマホの終話ボタンを押した後、空を見上げた。今日は雲があつく、星を見つけられなかった。これまで依頼の完了前に親父に連絡するなんてなかった。俺らしくもない。まさか、滝本の存在に弱気になっているとでもいうのか。それとも、誉川の方に危険を感じているのか……。
あの二人はそれなりに仲がいいようではある。だが、それ以上に特別な間柄には見えなかった。誉川か、その関係者が雇った護衛が滝本、というわけでもなさそうだった。
『前向きに考えるか……。これは俺が暗殺家としてさらに成長するための試練、とでも』
◆◆◆
放課後の屋上、「イサミん」こと滝本 勇はある生徒が姿を現すのを待っていた。数時間前まで雨が降っていたため、屋上の地面は湿っており、足元から熱気が込み上げてきていた。彼が遠くの街を眺めながら時間をつぶしていると、鉄の扉が開く音と
「イサミん、こんなところに呼び出してどういったご用でしょうか?」
姿を見せたのは「リンちゃん」こと夏木 凛。彼女がイサミんに歩み寄ったとき、一瞬突風が吹き、彼女の長い黒髪が大きく揺れた。この屋上へは彼が呼び出したのだった。
「リンさん、すまない。こんなところに呼び出して。手短に済ませるよ」
イサミんが彼女を呼び出したのは、先日の漢字テストの際に見た「謎の呪いのようなもの」について聞き出すためだった。そして、それを消し去った彼女の力についてもだ。回りくどいことができない彼は、本人を呼び出して単刀直入に尋ねようとしているのだ。
『あの時の【呪い】……、ホメ子さんに近づこうとしているように見えた。それをリンさんが消し去ったのなら、彼女もまたホメ子さんを守ろうとしているのかもしれない。もし、そうなら僕と彼女は目的が一致する。そして、テルのことも伝えておかないといけない』
一方のリンはここに来るまでにいろいろと考えを巡らせていた。男子生徒に急に屋上に呼び出されてなにも考えない方がどうかしている。
『こんなところに呼び出すなんてイサミんはなんの話をするつもりかしら?』
『まさか告白っ!? でも待ってください! 私の見立てではイサミんはホメ子さんが好きだったはずです』
『まさかこの短期間で早々に彼女を諦め私にシフトしたのでしょうか? いいえ、イサミんに限ってそれはないような気がします』
『そうです! 私とホメ子さんが仲良くしているので、彼女との仲介役を頼みたいとの申し出ですね! たしかに正攻法でホメ子さんを落とすのは意外と難しそうですからね』
リンはイサミんの正面に立ち、乱れた髪を整えてから話始めた。
「いいえ、イサミん。お気になさらず。あなたのお話はおおよそ察しがついています」
イサミんは思った。
『察しがついている? そうか、僕が彼女の力を見抜いたように彼女もまた、あの瞬間の僕の動きを見て気付いていたのか。勇者の力を解放してはいなかったが、彼女は相当鋭い人物なのだろう』
「さすがリンさんだね、恐れ入ったよ。わかってくれているなら話が早い。あなたの力をどうか貸してもらえないだろうか?」
『やっぱりイサミん、ホメ子さんと距離を縮めるために私に協力してほしいんですね。こういう男子の想いには応えて上げたくなります』
「ええ、ホメ子さんとのことですよね? わかりました。私が力になれることならお手伝い致しましょう」
『さすが、リンさん。やはりホメ子さんを守ろうとする同士だったのか。理解が早くて助かる』
「ありがとう、リンさん。とても心強いよ。実はもうひとつ、話しておきたいことがある。テルのことなんだ」
『テルというと谷地田くんかしら? 彼がどうしたのだろう?』
「テルはホメ子さんを狙っている。彼は只者じゃないんだ。気を付けた方がいい」
『谷地田くんも!? さすがホメ子さん……すでにクラスの男子の心を虜にしているなんて……ですが、ここは先に相談をくれたイサミんに味方すべきですね』
「そうですか、あのテルくんが……、わかりました。私はイサミんの味方です。安心して下さい」
『リンさんが味方になってくれて助かった。実は、高校生活でホメ子さんを守るためにある大きな障害を抱えていたんだ。それは体育の授業や健康診断など……男女が別々のときだ。これだけは僕もホメ子さんから目が離れてしまう。ただ、女性の協力者がいればそこも解決できる』
屋上の二人はこうして、お互いの趣旨をきちんと話さないまま理解し合ったように微笑みを交わしていた。
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