第2話 彼女はホメ子さん

 その生徒の名は「誉川 芽衣子(ほまれかわ めいこ)」、オレと中学が一緒の女子だ。クラスのみんなから「ホメ子」と呼ばれている。その呼び名の通り、彼女はとにかくなんでも「褒める」人だ。身長は低く、ボブカットの黒い髪が特徴だ。げっ歯類みたいな大きい黒目をしていて、彼女自身がまるで小動物のようでもある。


「キャーッ!! ホメ子さんの背中!」

「ホメ子さん後ろ! 後ろっ!」

「誉川さん、じっとしてなさい! そのうちどっかに飛んでいきますからね」


 周りの生徒が叫ぶ中、ホメ子さんの反応はとても薄い。先生はなだめるような声を出すが、ホメ子さんはそもそも騒いですらいない。


 彼女は首をゆっくりと左右にふっている。どうにか背中の蜂の姿を確認しようとしているようだ。だが、残念ながら蜂の止まっている位置はどうがんばっても見られるところではない。


「蜂さんは完全に私の死角に入ったんですね! 凄腕の暗殺者さながらの動きです! 表彰ものですよ!」


 ホメ子さんは時々こういうよくわからない例えをする人だ。このクラスの生徒は、ひと月とちょっとの間でホメ子さんのそういうところを理解していた。彼女は何に対しても褒めようとする、たとえ相手が虫であろうと……。ただし、「褒め上手」かどうかはまた別の話だ。


 オレは小学校の頃に、蜂に刺されて大泣きした経験がある。今、ホメ子さんの背中にいる蜂に万が一刺されてしまったらアナフィラキシーショックとかいうので死んでしまうのだろうか。――というか、回数に関係なく、大型の蜂に刺されたらショック死するような話も聞いたことがある。


 地味に生命の危機に瀕しているのか、ホメ子さんよ。

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