ホメ子さんはお見通し!?
武尾さぬき
第1章 カラスの平和で普通な日常
第1話 カラスの日常
5月、大型連休が明けて、気候は一気に夏へと近づいたようだった。窓の外、オレは青空と流れる白い雲を何気なく目で追っていた。
ここは私立皐ケ
街の中にポツンと飛び出た丘の上に建てられた白い外壁の校舎、その中の教室にオレはいる。今は、現代文の授業中だった。漢字の書き取りテストをしている。それほど難しい内容ではなかったため、早々に書き終えたオレは残りの時間、外を眺めていた。
名前は「烏丸 遊(からすま ゆう)」、今年この学校に入学した1年生だ。クラスの中にひとりだけ、中学校も同じだった生徒がいて、彼女がオレを「カラス」と呼んだために、ここでのあだ名も早々に「カラス」となってしまった。ある生徒の話では、真っ黒な髪と変に長く伸びた前髪が「烏」っぽくもあるらしい。
高校生活には徐々に慣れ始め、クラスメイトの顔と名前がようやく一致してきた頃だった。今日は夏が前倒しでやってきたように気温の高い日で、教室の窓を全開にしていた。
窓際の後ろから2番目の席にいるオレは、窓ガラスに大きな蜂がぶつかったのを見た。遠目に見て、自分の親指以上の大きさはある。あれは「スズメバチ」だったかな、と昆虫に関する少ない知識でオレは考えていた。
一度は見えない壁に行く手を阻まれたようだが、方向転換して何度かガラスにぶつかっているうちに教室の中に入ってきてしまった。
まるで超小型の戦闘機のように重低音の羽音を響かせて、蜂は教室内を飛び回った。最初に気付いた女子生徒が大声を上げたのを皮切りに、教室内は騒然としてしまった。現代文を教える年配の女性教諭が騒がないように声を上げるが、まったく意味をなさない。
教室の天井付近を飛び回った蜂は、やがて突然方向を変え、ある女子生徒の背中の襟の下あたりに着地した。
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