イーサン大学
「姫様ーー。いつまで、そうシドニア家を見張られれば気が済むのですか」
「もう、リアムったら。捜査の基本は見張りって言うでしょ!?」
「いやいや、僕たちは騎士団ではないですし、これは捜査ではなく依頼を承っているだけでございます」
「なによ、形から入るのも大事よ―― あっ誰か出てきたわ。あれは確か――」
そう物陰に隠れている2人は、シドニア家から出てくる馬車で出てくる1人の女性を見つけた。
「姫様、あの方はシドニア男爵の娘です」
「あの制服どこかで見たような――、あっ!名門イーサン大学の制服じゃない!?リアム!」
「確かにそうですね……。シドニア男爵の娘は大変優秀でございましたか」
「いや、待ってリアム。何かがおかしいわ……。確か――」
そうソフィアは顎に手を添えながら、昨日の出来事を思い出した。
街で会った商人に聞いた情報――
「そういや、シドニア男爵の娘さんは今年、名門イーサン大学に入ったんだとよ!まぁ、娘も男爵と一緒で憎たらしいけどな!ガハハッ!」
依頼主であるメアリーさんがファクトタムに訪れたときにした、何気ない会話――
「では、メアリーさんもお父さんを継いで庭師をやられているのですか?」
「はい、私事ですが、今年イーサン大学に落ちてしまいまして。家業を継ぐことにした矢先に、父が急死にーー」
「はっ……!分かった!分かったよ、リアム!!」
「何がですか姫様!?」
「この依頼の真相よ!よし、今夜はリアムの魔法の出番よ」
そうソフィアはリアムに向かって微笑んだ。
―――――名門イーサン大学
太陽が沈み、月明かりだけが街を照らす頃……。
ソフィアとリアムは宮殿を抜け出し、夜の静まり返った名門イーサン大学へと来ていた。
「本当に大丈夫なのですか!?姫様」
「なによ、リアムったら意気地なしね」
「そうではなく、もしばれたら罰を受けるのは僕ですよ!?それに、正当な方法で行うと言ったのは姫様ではありませんか!」
「話が変わったのよ。あっちが不当ならこっちも少し不当な方法でいかせてもらうわ。リアム、お願い」
「……もう、僕は知りませんからねぇ……」
そうため息をつきながら、リアムは指先から光を放ち、門の鍵を開けた。
魔術が得意なリアムは、簡単な魔法ならば、呪文を唱えなくとも難なくこなしてみせる。
「さぁ、行くわよ、リアム。資料保管室へ」
そう、2人が目指す先は、資料保管室である。
暗い長い廊下や階段を走り抜けていく2人。
「……姫様っ!」
リアムは警備員を見つけ、ソフィアの手を引き、瞬時に物陰へと隠れた。
「……やはり、これを使った方が良さそうですね。『トランスパルァン――』」
リアムのその呪文で2人は周囲の人からは見えない、透明人間となった。
「もう、最初からこれを使ってくれればいいのに!」
「無駄口を叩いていると、姫様の魔法だけ解きますからね……」
「ちょ、それだけはやめてよ、リアムったら」
そんなことを言いながら、監視の目を抜け、2人はイーサン大学の奥にある立入禁止の資料保管室の前へとたどり着いた。
先程と同様、リアムは簡単に資料保管室の鍵を開け、2人は中へ入ると……。
名門イーサン大学の機密情報が書かれた書類がたくさん積まれていた。
「絶対に、ここに証拠があるはずだわ。探すわよ、リアム」
「はい、姫様」
こうして、2人はこの膨大な数の資料から、夜が明ける前にシドニア家が抱えているであろう秘密を探し出すのであった。
―――「あった……リアム」
「ほ、ほんとうですか!?」
もうすぐで夜が明けるころ……。ソフィアは探し求めていた2枚の紙を見つけ出した……。
ソフィアの手元には、
今年の入学試験の答案用紙。メアリー・ガードナーとシドニア男爵の娘である、エリス・シドニアのものであった。
「リアム、光をともして」
そう言われ、リアムが光をともして、はっきりと見えた答案用紙には……
「……やっぱり、後から誰かが受験番号と氏名を書き換えているわ」
同じ筆跡で書かれた2名の受験番号と氏名。その下には、うっすらと入れ替わる前のメアリー・ガードナーとエリス・シドニアの氏名が消された痕跡があった。
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