情報収集
ガヤガヤと賑わうこの通りには、果物や肉、魚、雑貨に髪飾りなどが、様々なものが売られているお店で賑わっている。
「お、そこの嬢ちゃん。これ買ってかねえか?」
「あら、お綺麗な髪飾りね」
「お、嬢ちゃんまだ小さいのに、言葉遣いが上品だな!ガハハッ!」
そう豪快に笑う、商人の男性であるが、このお店で売られている髪飾りはどれもキラキラしていて可愛いものばかりであった。
「これ、この綺麗な花の髪飾りをいただこうかしら」
桜色と白色が混じった髪飾りを手にしながら、ソフィアは笑顔で言った。
「ちょっと!ひ、ソフィア!買い物をしにきたのではないでしょ!」
「あ、そうだったわ、リアム」
「お、嬢ちゃんたち。なんか訳アリかい?」
そう気前よくソフィアとリアムに聞く商人は、太い腕を胸の前で組み、鼻を自慢げにフンッと鳴らした。
「……なるほどな。嬢ちゃんたちは、あのシドニア男爵について調べてるってわけか。それなら、俺がいえることはただ一つ。あいつは最低な人間ってことだな!ガハハッ!!」
「最低な人間……??」
「そうだよ、男爵様だからって調子に乗りやがって。ここら辺に住んでいる俺ら平民にまーあ酷い扱いをするもんだぜ」
「……例えば?」
「うーむ、優しい俺でも、この先は簡単には教えられないなあ。あと1つ髪飾りを買ってくれりゃあ――」
そう急にもったいぶる商人に、ソフィアはたくさんの髪飾りが置かれている台に手をつき、身を乗り出して言った。
「旦那さん、さっき私が買ったこの髪飾りだけれど……。この素材からして、20ロベラはちょっと高すぎるのではないかしら?せいぜい儲けを見積もっても13ロベラが妥当だわ」
「……おっとぉ、嬢ちゃんよ……。歳によらず賢いなら早く言ってくれよなぁ……、おじさんは焦っちまうじゃあないか」
「それなら、シドニア男爵についてもっと詳しく教えて貰えるかしら……?」
「わ、分かったよ、嬢ちゃん。降参だ」
こうして、街の商人から聞き出したシドニア男爵についての情報はこうであった。
シドニア男爵は、その身分ゆえにこの地域の平民に対して差別的な言動が多く、嫌われているということ。
そして、シドニア家で働いている使用人や、食料品の売買などで関わっている商人などは劣悪な環境で働かされており、さらにそれに見合った賃金を貰えていないということであった。
「今日はいないけどよ、向かいで店をやってるジーブスなんか魚を安く売れと無理やり言われて、逆らえず生活が苦しくなっちまったことがあるんだぜ」
「……それは酷いですね」
「まあ、髪飾りを高値で売ったことは謝るけどよ、嬢ちゃん。俺たちも今日を生きるのに必死なんだよ」
「……ええ、理解していますわ。いつか、この辛い現状を変えて見せます……」
「お、大それたことを言うねぇ。あっぱれ!だけど、それは我がロベイン帝国の陛下様レベルじゃないと無理かもな、嬢ちゃん!でも夢は大きくだぞ!」
「はい。いつかこの夢、叶えてみせます」
そう言い、ソフィアとリアムは大きく手を振る店主に、手を振り返しながら、店を後にした。
「……つまり、情報を整理すると、シドニア家で庭師として働いていたガードナー氏も、厳しい労働を強いられていた可能性が高いということよね……」
「そうですね、姫様」
「だとすると、ガードナー氏の急死と亡くなったペンダント、これらとシドニア家が隠していることが関係しているはずだわ」
「なにか、ガードナー氏は、シドニア家の秘密でも知ってしまったのでしょうか……」
ソフィアとリアムが2人で路地裏で情報を整理していると……
「にゃあっ」
そう声がする方を見ると、いつもの白い毛並みの猫がやってきた。
「あら、猫ちゃんじゃないの。いつのまにここまで着いてきたの?」
そのソフィアの声に反応するように、もう一度「にゃあ」と鳴いた猫が、自分の足の方に向けた視線の方を見ると、足が泥で汚れてしまっていた。
「ふふっ、猫ちゃんったらどこの泥水で遊んできたのかしら。可愛いわね。今拭いてあげるわ」
そう言いながら、猫を持ち上げ、ソフィアは猫の足をハンカチで拭いた。
「姫様、そろそろ日が暮れますし、今日は宮殿に帰りましょう。猫様の体も冷えておりますしね」
「そうね、リアム」
――――――
「……それで、今日の報告を述べよ」
「まぁ、まぁ、陛下。そう焦らずに。今日は満月でとても綺麗ですよ」
「……アルブス、お前の無駄話などに付き合っている暇はない」
「あらあらぁ陛下ったら、お冷たい。一緒に育った仲じゃあありませんかぁ」
「ルイス、こいつを黙らせる魔法はないのか」
「陛下、攻撃魔法の私的利用は禁じられております。ですが、陛下の命令ならば……」
「ひーっ怖い怖い。ルイスも一緒の飯を食った仲じゃないか、そう固くなさんな」
「……それで報告は?」
「はいはい、分かりましたよ……」
満月が闇夜を照らす中、王宮ではロベイン帝国の王である、エリオット・ディ・ロベインとその側近であるルイス・スチュワート、
そして騎士団に所属しているものの自由奔放な振る舞いから、騎士団ですら手に負えていない騎士であるアルブスが何やら、話をしていた……。
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