初めての依頼
メアリーの依頼内容はこうであった。
先日亡くなった父であるガードナー氏は、常に首からペンダントを下げていたと。
だが、決して娘であるメアリーには、そのペンダントの中身を見せてくれることはなかった。
そんなある日、雇われていたシドニア家での仕事中に急死したという連絡が入った。
そして、急いで向かい、対面した父の遺体の首元には、いつも付けていたペンダントが無かったという。
亡くなった朝、家を出るときには付けていたのを確認していたメアリーは、シドニア家で落としたと考え、庭を探させてもらえないかと問い合わせをしたところ、一切取り合ってくれなかったという……。
「なるほど……。では、私たちにそのペンダントを探してほしいという依頼でございますね」
「はい……。絶対に父が大切にしていたペンダントを見つけて、形見として身に着けたいのです」
「その依頼、承りました」
「それで……料金は、おいくらでしょうか……」
そう言いながら、横に置いてあるバックを開けようとしたメアリーにソフィアはこう言った。
「手を止めてください、メアリーさん。私たち、ファクトタムは依頼に対する報酬は受け取らないようにしております」
「え……、でも」
「困っている人を助けるのは当たり前のことですもの。どうか、バックを閉めてください」
メアリーは、困惑しながらもソフィアとリアムの顔を見て、そっとバックから手を離した。
そして涙ながらにこう言った。
「どうかっ……、どうか父の形見を見つけて下さいっ……!お願いします……!」
初めての依頼主であるメアリーが店から出た後――
「さぁて……どうしようかしら」
「そんなの、簡単でございます。姫様。王家の名前を使って、そのシドニア家とやらに庭を探させればよいのですよ」
「こら、リアムったら。そうしたら私の正体がばれちゃうでしょうが。それに、権力を使う気はありません」
「では、僕の魔法を使って、シドニア家の使用人全員を眠らせて探しましょう」
「もう、すぐ魔法を使おうとする。魔法を乱用するのは好みではありません。それに大々的に魔法を使ったら、魔法団にばれてしまうでしょうが」
「先程、姫様だって僕に魔法を使ったではありませんか!」
「さあ、なんのことかしら?そんなことより、私はきちんとした形でペンダントをシドニア家から取り戻すの!」
「はぁ、分かりましたよ。姫様」
このような経緯で、ソフィアとリアムはとりあえず、シドニア家に向かうこととした。
―――シドニア家
「ここが、シドニア男爵の邸宅ね……」
「はぁ、はぁ……。姫様、日頃から馬車をお使いになられたほうが良いと言っているではありませんか……」
「私だって疲れているわよ。でも、馬車なんて使ったら身分が高いものとばれてしまうでしょう。それに、私は平民に寄り添うことが、真の国家の君主となりえると信じているの」
「それは、素敵なお考えではありますが……」
「あ、リアム!門の近くに使用人が来たわよ!話しかけましょう!」
ソフィアは、シドニア男爵に勤める使用人らしき男性の元へと、駆け寄り話しかけた。
「こんにちは。私、イーサンで便利屋をしています、ソフィアと申します。横にいるのは、リアムです。少し、シドニア男爵にお伺いしたいことがございまして……」
「シドニア男爵にですか?なにか事前にご連絡などはされていますか?」
「あ、いえ!そのようなことはしていないのですが……」
「でしたら、お通しすることはできかねます」
「……先日、お亡くなりになったガードナー氏についての話といっても?」
そう、ソフィアが核心をつくように使用人に言うと、使用人の男性の表情が明らかに強張った。
「た、確かにガードナー氏はシドニア男爵にお仕えの庭師でございましたが、それについて何も話すことはございません!」
「……なにか、聞かれて不都合なことがあるとでも?」
ガードナー氏の名前を出した途端、焦りだした使用人を見て、ソフィアがさらに問い詰めると、
「私は、ただの使用人の立場なので……!」
そう言いながら、邸宅の奥の方へと走っていなくなってしまった。
「姫様……。この依頼、ただペンダントを探すだけかと思いきや、何か裏があるようですね……」
「ええ、リアム。明らかに今の使用人の男性の豹変ぶりはおかしかったわ」
今回の依頼に、何か複雑な裏があると踏んだソフィアとリアム。
だが、門前払いされてしまった以上、このシドニア家で出来ることは、今のところ何もない。
「そうだ!リアム、まずは周囲から固めるのが最善よ。このシドニア男爵という憎たらしい人間について、町の人に聞いてみましょう!」
そう空に向かってこぶしを高く上げたソフィアは、街の商店が並ぶ通りの方へと駆け出した。
「ま、待ってください姫様!」
リアムはそう息を切らしながら、自由奔放なソフィアを追いかけるのであった。
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