孤児院


 孤児院の子供たちと遊び始めて1時間ほどが経った。


 ソフィアは自分よりも年下の子供たちからは「ソニーお姉ちゃん」と懐かれ、同年代の子供たちからは「ソニー」と呼ばれ、とても親しくなっていた。


 普通の王女様、又は格式高い貴族であるならば、敬称を付けずに呼ばれることは問答無用で処罰の対象としてもおかしくない。

というかその方が当たり前の世界である。


 だが、社交場に出たこともないソフィアは、自分が敬われる対象であることを頭では分かっていても、実際に肌で感じたことがないため、特に気にしてはいなかったのだ。




 「みんなー!ご飯の用意ができたわよー!」


 そう、先程の孤児院を経営するお爺さんの奥さんであろうか。草原で遊ぶ子供たちに向けて大きく声を掛けた。


 「みんな、ご飯の時間だって。遊びは一旦辞めて、食べに行きましょう」


 「えー。もっと遊びたいよ、ソニーお姉ちゃん」


 「私も、私も!もっとお姉ちゃんとかけっこしたいよお」


 そう駄々をこねる子供たち。この小一時間ですっかり孤児院の子供たちに好かれてしまっていた。



 「私もまだみんなと遊びたいわ。でもお腹が空いてきたでしょう?だから、お昼ご飯を食べたら、また遊びを再開しましょう!」


 そう言いながら、ソフィアは5、6歳ほどの男の子の前にしゃがみ込んで、お腹に手を当てた。


 「ほら、お腹がなっているじゃない」



 そう、微笑みながら言うソフィアは、市民と同じ服を着ていても、どこか高貴な雰囲気を纏っていた。





 「ほら!みんなたくさん食べるのよ!」


 そう孤児院の奥さんが出してきたのは、豆のスープとパンであった。


 「パンだ!パンだ!」そう口々に喜ぶ子供たちの光景を見て、ソフィアはそっとリアムに耳打ちをした。


 「リアム。ここでは、パンも珍しいものなのかしら」


 「姫様。貧しい方々にとっては、パンは肉の次に高級なものとなっています」


 「そうなのね……。私はまだまだ勉強不足だったわ……」


 毎日自分が当たり前のように食べている「パン」


 その一切れでさえ、目を輝かせながら食べる自分と同年代の子供たちに、ソフィアは胸が苦しくなった。


 魔力が少なく、魔術があまり使いこなせないことと裏腹に、ソフィアの頭脳は跳びぬけていた。


 だが、目の前の光景を見て、自分は天狗になっていることを思い知らされた気がしたのだ。



 「グラーティア……」


 一切れの小さなパンを持ち、そうソフィアは静かに言った。






 夕日が山の後ろに隠れるころまで、ソフィアは孤児院で暮らす孤児たちと時を忘れたかのように遊んでいた。



 「ベン!追いつかれちゃうよ!!」


 「ソニーこそ、ちょっとは年下に手を抜いてあげなよ」


 「私は勝負事には手を抜かないタイプなの!!」


 そう言い、ソフィアは例え年下であっても手を抜かず、全力疾走をしていた。


 そんなとき、孤児院に住む孤児のうちの1人である、ベンは年下のガーナに捕まってしまった。


 「ベンが捕まっちゃった!あ、きゃあーー!」


 ベンが捕まったこと気をそられ、よそ見をしていたところに、挟み撃ちをされてソフィアはまんまと、年下の子たちに捕まってしまった。




 「はあ……疲れたね」


 そういいながら、子供たちと一緒に草原に寝転がったソフィア。


 息を整えながら上を見上げると、赤く染まった空がとても幻想的であった。




 「姫……ゴホンッ、ソニー。そろそろ帰る時間だよ」


 「ほんとだ!リアム!帰らなきゃ大変だ」


 そうガバッと頭や服に草をつけたソフィアは起き上がった。


 そんな2人の様子を見て、孤児であるベンとガーナは、「もう帰っちゃうの?」そう寂しそうに聞いた。


 ガーナに至っては、ソフィアのスカートの端をぎゅっと握った。



 「ごめんね、ここから首都のイーサンまで、少し時間がかかるから……。でも!絶対また遊びに来るよ!」


 「絶対?ソニー」


 「うん!絶対!またみんなでかけっこをしよう!」


 「約束だからね!」



 そう子供たちと約束をし、笑顔でソフィアとリアムは孤児院のあるシルワ村を出て、王宮へと向かったのであった。





 夕日が沈み、首都のイーサンへ着いた頃。


 昼間は芸者やハーモニカを吹く少年、行き交う貴族が乗る馬車などで賑わっていた広場であるが、なにやら様子がおかしかった。



 「……なにか、様子が変だと思わない?リアム。私、嫌な予感がするわ」


 「姫様、僕も同感です。先程から、王家専属の騎士団や魔法団とみられるお方たちが行き来しています」


 「騎士団と魔法団なんて、よっぽどのことが無い限り……」



 そうソフィアとリアムが疑問に思いながら、王宮へと変えるため首都であるイーサンの街を歩いていると……


 「ソフィア王女っ!!ここにおいででしたかっ!」


 「父上!どうしてここに!」


 「そうよ!ルイス。もしかして、お父様に宮殿を抜け出したことがばれたの!?」


 急に2人の目の前に現れたのは、リアムの父であり、ロベイン帝国の王:エリオット・ディ・ロベインの執事、そして最側近の「ルイス・スチュワート」であった。


 「王女様、そんなことはとっくに陛下にばれており、黙認されているだけでございます。そんなことよりも、ここは危険です。直ちに王宮に戻らせていただきます」


 そういい、ルイスは自分も含め、私たち3人の周りを人差し指から放った光で囲った。


 「ティディトフテッション」


 その言葉とともに、ソフィアたちは光に飲み込まれるかのように王宮へと瞬間移動した。



 ソフィアが目を開くと、いつも住んでいる王女専用の宮殿ではなく、陛下が住む王宮の中だった。



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