1章 侵略と冷戦
出逢い
2年前――
「お待ちくださいっ!!ソフィア姫様!!」
「捕まえられるものなら、捕まえてみなよ!べーだっ!」
「まだ古語の授業が終わっておりません!」
「もう覚えたもん!『ウィーウェーレ・エスト・ミーリターレ/生きることは戦うことだ』『ウィンキト・クィー・セ・ウィンキト/自らを征服するものを征服す――』」
「もう結構です!姫様が大変、聡明であられることは存じておりますが――」
「じゃあ、今日の授業は終わりでいいでしょ、マーサ!」
そういい、ソフィア第一王女は木の上から、颯爽とどこかへ飛んでいった。
*
「トン、トン、トン」
「姫様……。なんでまた窓から入ってこられるのですか。というか、まだ古語の授業のお時間のはずでは?」
「もう、覚えたから終わったの!マーサったら、私がまだ11歳だからって子ども扱いするのよ」
「姫様、11歳は十分子供です」
「何よ、リアムだって私と同い年で11歳じゃない。私を諭すように言って大人ぶっちゃって」
「僕は、姫様の執事兼護衛ですから。当たり前のことです。代々、私の家系であるスチュワート家は……」
「分かった!分かったから、今日は西の方へ向かうわよ!リアム」
「また宮殿を抜け出すのですか!?」
そう言いながら、ソフィアはリアムを連れて宮殿を抜け出したのであった。
*
ガヤガヤを多くの人が行き交うロベイン帝国の首都:イーサン
大きな噴水に時計台、広場には芸者がパフォーマンスをしている。
歩いていると、大きな音を立てて、貴族が乗る馬車が横を通った。
「やっぱり、一般市民と同じ服を着ていると、誰も私が王女だなんて気づかないわね」
「そりゃそうですよ。姫様は社交場などの公の場に出られていないんですから」
「魔力が少ないからでしょ。お父様は私のことを王家の恥だとお考えなのよ。だから、私のことを社交場に出さない。まあ、それも当然よね。王族の権威は強い魔力があってこその部分もあるものね……」
「そんなことないですよ、姫様」
「魔力がめちゃめちゃ強いリアムに言われても説得力がありませーんだ!」
そう魔力が強く、魔術が上手なリアムと多少揉めながら、首都から離れるように西の方角へと歩いていると、草原が広がる村である、「シルワ村」にたどり着いた。
「わぁ……とてもきれいな景色」
高台から眺める草原と山々は、いつも閉じ込められている王宮からの景色とは異なり、開放的で美しかった。
ずっとこんな広大な場所で何もかも忘れて自由に暮らしたい、そうソフィアは思ったほどだ。
「そこで何をしとるんじゃい。お嬢ちゃんたち」
そう話しかけられた方へと振り返ると、そこには作業道具を持ったお爺さんが立っていた。
ソフィアとリアムが返答に一瞬ためらっていると、「着いてきなさい。うちは孤児院をやっているんだよ。同い年くらいの子供たちがたくさんいるよ」
そう言い残し、スタスタと高台から西の方向へと坂を下って行った。
2人はお互いに一瞬目を合わせてから、そのお爺さんの後ろを駆け足でついていった。
お爺さんにつられるがまま、着いた先には、決して綺麗とはいえない水車小屋があった。
「もうすぐ昼飯の時間だから、みんなで食べようか。君たち名前は?」
「ソフ――」「ソニーとリアムです!僕たちは首都からこの村に来ました」
リアムはソフィアの身元がばれないよう、なんの躊躇いもせず本名を言おうとしているソフィアの口をふさいだ。
「そうかい、ご飯ができるまで孤児院にいる子供たちと遊んでやってくれんか。きっと喜ぶから」
「はい、是非!」
そう言い、綺麗な山々の下、草原で孤児たちと遊ぶことになった、第一王女であるソフィアと、その執事兼護衛であるリアムであった。
「ねぇ、リアム。私、孤児と初めて会ったけれど、見ている限り孤児っていっても普通の子よね。貧しいと聞いていたから、どこか私と違う人間だと誤解していたわ」
「ソフィア様、そうですよ。彼らは家柄に恵まれなかっただけで、それ以外は何一つ我々と変わりありません」
「むぅ。魔力は王家と限られた貴族だけが、生まれたときに宿る力だから、それも違うけれどね」
「そうでした、姫様。ですが、同世代の方たちと遊ぶ良い機会です。遊んできてください」
そう言いながらリアムが眺める方には、こちらに笑顔で手を振る数人の孤児たちがいた。
「ええ、彼らと遊んでくるわ、リアム」
「やっほー!私はソニーよ!みんな、一緒にかけっこしましょう!!」
そう言いながら孤児たちに駆け寄る姿は、大国・ロベイン帝国の第一王女の面影は全くなかった。
どこにでもいる明るい少女。誰もが今の彼女を見ればそう思うだろう。
すぐに孤児たちと打ち解け、元気に走り回る姿を見るリアムは、微笑みながらこう呟いた。
「王様にも、姫様の魔力以外の素晴らしい部分を見ていただきたいな……」
ロベイン帝国の恥さらしとして生まれた、魔力が少ない第一王女=ソフィア・ディ・ロベイン。
彼女は、少ない魔力と引き換えに、思いやりの心を持ち、聡明な少女であった――。
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