27.悪女、邪悪にほくそ笑む。④
「は? ギリーの未来も自己も何もかも潰すクソ親が気取った親面引っ提げて前触れ無しに突撃して来たというのに、“今日は大人しく帰る”? 言葉を間違えないでいただける? ──“もう二度とギリーを連れ戻しには来ない”でしょう?」
真顔で、淡々と。
抑揚のない言葉を紡ぎ、少女はじっとサンドランタ伯爵夫妻を見つめた。
(ギルカロンの未来を潰した? 私達が?)
ユーティディアの言葉にただただ息を詰まらせるメイオッドの隣で、クローラはたらりと冷や汗を流す。
(そんな筈は……だって私達はあの子が
ぐるぐると思考を繰り返す。
その最中、ユーティディアが呆れた口調で更に続けた。
「一体どうしてギリーにそこまで執着するのかは知らないけれど……子供の心殺しておいて何が親だ。あなた達にはギリーに会う資格も無ければギリーを連れ戻す権利も無い! あくまでも、クソ親の分際で親気取りをやめないのなら──……いいからさっさと可愛い子に旅をさせろ! そしてその間にこれまでの自分が本当に親足り得たか、見つめ直しなさい!」
「「──っ!!」」
息子と変わらぬ年端もいかない少女からの説教。それは確かに、サンドランタ伯爵夫妻の心に刺さった事だろう。
「ま、まって……ユーティディアちゃん、ギルカロンは……私達が嫌で、家に帰らないと言ったの?」
縋るような表情で、クローラは問いかける。
しかしユーティディアは気だるげな瞳で一瞥し、
「そうだと言ったら、叔母さん達は二人で大人しく帰ってくれるの?」
適当にあしらった。
「…………えぇ。今までずっと、あの子のためだと思っていたけれど……私達のやってきた事が全てギルカロンのためにならないのなら、一度、あの子を
「っおい! 何を馬鹿な事を言ってるんだクローラ!?」
「あなたは黙って!」
クローラの一喝でメイオッドは怯み、押し黙る。
そのやり取りを眺めつつ、ユーティディアは眠たそうに欠伸を零した。
「……突然押し掛けてごめんなさい、ユーティディアちゃん。お義姉さん。私達はもう帰りますわ」
「待ってちょうだい、クローラさん!」
シオリノートの制止も聞かず、クローラはメイオッドの襟首を掴みながら立ち上がる。軽く一礼し、彼女が部屋を出ようとした時、「待って」とユーティディアが扉の前に立ちはだかった。
それにクローラが困惑を浮かべると、
「扉の前にギリーがいると思うけど、連れて帰ろうとしたらその時はサンドランタ伯爵家の名声を地の底までたたき落とすので、そのおつもりで」
ユーティディアは世にも恐ろしい念押しをして、扉の前から退いた。
まさかそんな……と一瞬甘く見たものの、サンドランタ伯爵夫妻から見たユーティディアは酷く不気味な少女であり、彼女ならば本当にやりかねないと思わせる覇気があったのだ。
そのため二人は揃って脂汗を首筋に滲ませて、恐る恐る部屋の扉を開いた。
するとそこには、ユーティディアの言う通り久々に見た我が子──とは少し雰囲気の違うギルカロンがいた。
「母上、それに父上も……」
目を丸くして、ギルカロンは両親を見上げる。記憶の中にある彼のそれとは全然違う、活気に溢れたギルカロンの様子を見て、クローラはユーティディアの言葉を時間差で理解した。
(ああ──……本当に、私達はこの子の心を殺してしまっていたのね。私達から離れた方が、この子のためになるのね)
心が締め付けられるようであった。しかしそれは、自業自得の後悔による自責で。
クローラは、一人の親としてその痛みを甘んじて受け入れる覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます