22.悪女、従兄弟に提案する。
(────なんか知らんが、上手くいった。本当に訳が分からないが)
夕食を食べながら、ユーティディアは頭を悩ませていた。
もぐもぐと小さな口で咀嚼して飲み込み、ちまちまと大きなチキンを食べていく。
ユーティディアは少食だ。その上、食べるのがかなり遅い。それらの点から人との食事はあまり好まないのだが、近頃は、家族との食事は共に取るようにしていた。
「……ノア、チキン食べるか?」
「姉ちゃんもうおなかいっぱいなの?」
「ああ。分かってはいたが、多いな……私には到底食べ切れない……」
まだ三分の二程残るチキンを前に、ユーティディアは既に胃もたれを覚えていた。
「ティディは少食なんだな。どうしても無理だというならば、残せばいいのでは?」
「わざわざ料理長に作らせた物を残す訳にはいかないでしょう。でもこれ以上食べたら間違いなく戻すわ……」
「料理長への敬意、という事か……オマエは本当に凄いな。誰に対しても気を配れるなんて」
勘違いが勘違いを呼び、ユーティディアの知らない所でギルカロンは勝手に感心していた。
「無理しちゃだめだよ、姉ちゃん。僕が頑張って食べるから、姉ちゃんはデザート食べて」
「そういう事なら俺も協力しよう。ノア、俺にも取り分けてくれないか?」
「やだ」
「何でだ!?」
ギルカロンを無視して、テルノアはユーティディアの分のチキンを食べはじめた。
どうやら、ユーティディアの食べかけだからギルカロンには渡したくなかったらしい。
(……──私の知らないうちに、一体何が起きたの……? ティディと、ノアと、ギルカロン君が、こんなにも仲良くなるだなんて)
子供達の和気藹々とした様子を見て一番の衝撃を受けたのは、間違いなくシオリノートだろう。
この一ヶ月で幾度となく覚えた驚愕を、彼女はまたもや感じる事となる。
(この様子を彼が見たら……きっと喜ぶでしょうね……)
ユーティディアとテルノアの父親であるキリリオルタ・フィン・オデルバイドは、周りが引く程我が子が大好きだった。
仕事中でも隙あらば我が子の自慢をする子煩悩っぷり。
うちの娘が本当に聡明で〜〜。うちの息子が本当に可愛くて〜〜。と、半年に一度会えるか会えないかの子供達について語り続けられるものだから、騎士達もいつしか適当に聞き流すようになるぐらいだった。
だが侯爵兼黒曜騎士団団長兼近衛騎士団団長という立場故に多忙を極めており、基本的に領地ではなく王都に滞在している為、子供達に構えずにいた。
寂しい思いをさせているだろうという自覚はあるものの、仕事が多すぎてどうする事も出来ない。
そんな彼が、妹の息子を含めた子供達の仲睦まじい姿を見られたならば。
きっと、キリリオルタは心から喜ぶ事だろう。
(でも──私達の知らない所でこの子達が変わってしまったのは、少し寂しいわね)
仕事にかまけてティディ達を構えずにいた、私達の自業自得だけれど……。
シオリノートは、そんな情けない後悔から美しい顔に影を落とした。
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