21.従兄弟、真実と向き合う。②
その毒舌と、傲慢な態度による悪印象が先行して……色眼鏡を通してでしか、アイツを見てこなかった。
それを外して見ようと、一度もしなかった。
まさか、まさか────俺は、初めから間違っていたのか?
羨ましい。妬ましい。そんな感情に支配されて、俺はずっと……アイツの本質を見誤っていたのか?
「……なあ、ノア。アイツは、昔からずっと優しかったのか?」
「姉ちゃんはいつだって優しいよ。……ずっと僕を見ててくれたのも、姉ちゃんだけだし」
「そう、なのか」
ここに来た時に見たティディとノアのやり取りは、本物だったという事か。
それに……過去に言われた、今の今まで嫌味だと思っていた言葉の数々。それも色眼鏡を外してみれば──、全て俺の身を案じての言葉だったのかもしれないと、今ならば考えられる。
ティディは、ただ……少し言葉が足りないだけなんだ。
あと言葉に棘がある。それらによって、俺のように周りから誤解されてしまうのだろう。
本当は──相手をよく見ていて、更に気遣えるような心優しい人間なのに。
「俺は、なんという事を……散々勘違いした挙句、あんな暴言を吐いてしまうだなんて」
「暴言? 姉ちゃんに?」
「ああ……今思い返してもあれは酷い……っ、およそ、女性に言ってはならないような罵詈雑言をアイツに向けて叫んでしまった」
あの後、彼女はどんな顔をしていたか。
確か……そう。目を見開いて、どこか傷ついた、ような──……。
「っ!!」
そうだ、傷ついていた。あの時ティディは……勢いに任せて口にしてしまった俺の罵詈雑言で、心を痛めていた。
いつも無表情だったアイツが、酷く動揺した表情になっていた。それが全ての答えだ。
俺は、なんて事をしてしまったのか。
ティディはこんなにも俺のためにと心を砕き、手を尽くしてくれているのに。
それに引き換え俺は……日頃のストレスから勘違いを加速させ、ついには罵詈雑言まで。俺がティディの立場なら、こんな恩知らずとは縁を切るだろうな。
「……ティディに合わせる顔がない。俺は、どうすればいいんだ……?」
「死んで詫びればいいんじゃないの?」
ノアからはなんとも極端な案が飛び出してきた。
コイツ、まだ確か六歳とかだった気がするんだが……なんでそんな言葉を知ってるんだ?
「死ぬのはともかく、詫びる……か。そうだな、それしかない。ティディに謝ろう!」
気を取り直した俺は、思い立ったが吉日と立ち上がろうとし、ノアに阻止された。
「姉ちゃんに心配かけるな。姉ちゃんの時間を奪うな。さっさと治して帰ってよ」
圧がすごい。ノアの奴、いつの間にこんな叔父さんみたいな威圧を……。
男子、三日会わざれば刮目して見よ。
暫く会わないうちに本当に成長したんだな。俺も負けてられない。が、果たしてこんな俺が成長など出来るのだろうか。
ずっと偏見に囚われていた情けない男に……目を張るような成長なんて、可能なのか。
仮に無理なのだとしても──挑戦ぐらいはしてみたいな。
「そうだな。今はとにかく休んで……元気になってから、ティディには謝罪しよう」
そう思った途端、体がどっと重くなった気がした。
今まで気付かなかったが……どうやら本当に、俺は体調が悪かったらしい。俺自身ですら気付かない事にまで気付くなんて──アイツは凄いな。
その細やかな気遣いこそ、俺の目指す万人に受け入れられる理想像そのもの。
ティディから学べる事がこんなに沢山あったなんて。本当に俺は……何も見えてなかったんだな。
♢
「あ、おはようギリー。よく眠れたか?」
「……おはよう、ティディ。ところで何をしてるんだ?」
仮眠の後目が覚めると、ベッドの隣にはノアと……その背に隠れるティディがいた。
「いや、まあ、うん。私の顔など見たくもないかと思って……」
ティディが話せば話す程、ノアから俺への視線がキツくなっていく。
だがこれも仕方の無い事。俺が彼女に酷い事を言ってしまったから、不器用だが心優しい彼女はこうして顔を見せないようにしているのだろう。
まずはあの事を謝罪して、それから──。
「それでな、ギリー。とりあえず夕食の準備が出来たから呼びに来たんだ。一人で食べたいとか、希望があれば言ってく…………」
「──ッすまん!」
「えっ?」
勢い良く頭を下げる。すると、驚愕の声が聞こえてきた。
「今まで本当にすまなかった! オマエに酷い事を言ってしまった! 俺は、今までずっとオマエの事を……っ、本当にすまない!!」
「え、えぇ……? まだチキン出してな……え? なんで……?」
ティディは露骨に困惑した声を漏らしている。数時間前までの俺の態度を考えれば、困惑するのも頷けるな。
「──う、うん。そうか。私は特に気にしてない……し、とりあえず頭を上げろ。うん。私も今まで悪かったな」
本当に心が広いんだな、ティディは。
俺も見習わねば。
「……顔、見せても大丈夫か?」
「っああ! もう怒鳴ったりしないよ」
「そ、そうか」
おずおずと、彼女は顔を見せる。
ティディはこんなにも──可愛らしい顔立ちだったんだな。
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