18.悪女、従兄弟に嫌悪される。②
(──結局、あの女は何も変わってない。無遠慮で、不躾で……人の気持ちも考えずに好き勝手発言を繰り返す、冷血漢なままだ)
一人取り残された部屋で、ギルカロンは奥歯を噛み締めていた。
ユーティディアに変化を期待した事が間違いだった。そう言わんばかりに口元を歪ませる。
その後、侍女に案内されて泊まる部屋に行き、やけに人の気配のない部屋を割り当てられたな──と、複雑な気持ちに苛まれる事になった。
だが、その分とても静かでベッドはふかふかだった。それにより、旅の疲れもあったのか、ギルカロンはすぐさま寝落ちしてしまったのだった……。
♢
「ん……俺、寝てたのか……」
「おはようギリー。よく眠れたか?」
「ああ……って──なんで、オマエがここに!?」
重たい目を擦りながら体を起こしたギルカロンのすぐ傍には、新聞に目を落とすユーティディアが座っていた。
新聞を閉じて立ち上がったかと思えばそれを椅子に置き、ユーティディアは黙々と水桶に入ったタオルを絞る。
(まさかこの寒い中、濡れたタオルで俺を殴るつもりか……? ──いや。いくらティディが冷血な女でも、流石にそこまで残忍な性格ではない……筈だ)
その行動の意図が分からないギルカロンは、おもむろに差し出されたタオルに視線を落とし、何度も目を開閉させた。
「寝汗をかいているだろう。これで汗を拭け」
「え? あ、あぁ……ありがとう……」
困惑した面持ちでタオルを受け取り、顔にタオルを当てる。
(ぬるい……)
冷たくも熱くもない、絶妙な温度。そのタオルで軽く汗を拭くギルカロンには目もくれず、ユーティディアは暖炉の方に向かった。
「ちっ……暖炉の火はどうやったら抑えられるんだ。強くしすぎたか? だが部屋を温めるためにはこうするしか…………はあ、めんどくさいなこれ」
ぶつぶつと文句を言いながら、ユーティディアは火かき棒で暖炉をつつく。
その黒く小さな背中を見て、ギルカロンは言葉を失う。
「……何やってるんだ、ティディ」
「何って……見ての通り火の世話だが」
「だから、なんで、オマエがそんな事を?」
噛み合わない会話にギルカロンが僅かな苛立ちを覚えた時、ユーティディアは立ち上がり彼の方を振り向いた。
「だってあんた、人間と接するの嫌いでしょう? だったら侍女に任せるよりも、あんたが嫌ってる私の方がいいと思って」
表情一つ変えずにそう言い放ったユーティディアを、ギルカロンは歯ぎしりと共に強く睨んだ。
彼女の何気ない一言は、見事にギルカロンの地雷を踏み抜いたのだ。
「──ッああそうだ! 俺はっ、他人の事情など考えもせず、土足で踏み荒らすようなオマエの事がずっと苦手だった!! それを分かっていながら、こうしてわざと嫌がらせをするなんて……っ! オマエは相変わらず捻じ曲がった人格なんだな!!」
真面目な男の叫び声など、これまで聞いた事がない。
フーッ、フーッ! と息を荒くする程の怒涛の勢いで捲したてられた彼の本心に、さしものユーティディアも言葉を詰まらせた。
金色の瞳を満月のように丸くして、動揺からそれを震えさせる。
「…………私、は……邪魔なようだな」
そう言い残して、ユーティディアは部屋を出る。扉が閉まる間際に「後の事は、ノアに頼むから」と部屋に向かって声を投げて、邪魔者は退散したのだ。
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