8.悪女、いい子になる。③

 執事長ゼパと、侯爵代理のシオリノート、そして侯爵令嬢ユーティディアの三名で行われた南方の村の食糧難対策会議は、有意義な時間だった。


 食糧難の原因は冬が始まる前に長続きしていた雨季によるもの。それによって川が氾濫し、南方で行われていた農耕が秋のうちに終われなかった事が原因とされた。

 そのため冬真っ只中の今は、領地西方にある穀倉を解放して配給する事で一時しのぎとし、冬が明ければ堤防を建設する事で話は固まった。

 堤防建設にあたっての人件費と材料費を現地の人達に手伝わせる事で削減し、なんとかギリギリではあるが、堤防建設の方向で話を進められる事になったのだ。


 そのついでとばかりに、ユーティディアは今現在の南方の土壌で育ちやすい作物を調べ、その種を買い付けるよう提案していた。

 たったの二日程度でそれだけの量を調べ抜いた事に驚愕を禁じ得ないシオリノート達であったが、後にあのユーティディアが寝る間も惜しんで膨大な資料を読み漁っていたと知り……彼女が本気でこの問題に向き合っている事を知り、深く感銘を受けていた。


 一仕事終え、よしこれで親孝行は出来たな! と満足気に頷くユーティディアを見て、ゼパとシオリノートはほっこりと癒される。

 未だにユーティディアの変化の理由は分からないものの、怠け者の天才がやる気を出した事は領地にとっても喜ばしい事。

 下手に薮を突っついて蛇が出てきたら困るので、シオリノート達はユーティディアの変化についてはこのまま様子見する事にしたらしい。


(昼寝だ昼寝! ここ数日全然寝てないから今日はたっぷり昼寝するぞー!)


 鼻歌混じりに上機嫌に自室に向かうユーティディアであったが、ささやかな野望はあえなく潰される。


「向こうにはいた?」

「あっちにもいなかったわ」

「一体どこに行かれたのかしら……」


 前方にて慌てた様子の侍女達がたむろしている。その様子を見て、ユーティディアはふと嫌な予感を覚えた。


「ユーティディア様! テルノア様を見ませんでしたか!?」

「ノアがどうかしたのか?」


 こちらに気づいた侍女が駆け寄ってくる。

 これは面倒事だなと察したユーティディアがげんなりとした顔を作りつつ話を聞くと、


「実は……今朝から姿が見えなくて。上着もお部屋にあるので、もし薄着のまま外に出ていたらと思うと心配なんです」


 侍女達はテルノアの安否を気にかけ、眉尻を下げた。


「あいつ、またあなた達に迷惑をかけたのか。もういい歳なんだから、いい加減落ち着けばいいものを……」


 腕を組んでため息を一つ。その七歳の子供らしからぬ仕草に、


(お嬢様も──)

(ユーティディア様も──)

((まだ七歳の子供なんだけどな……))


 侍女達は苦笑した。


「ノアの居場所……心当たりがない事もないから、私も探してみるよ。私の心当たり通りだったら多分体を冷やしてるだろうから、湯船を用意しておいてやってくれ」

「! ありがとうございます、ユーティディア様!」


 急いで湯船の準備に向かった侍女達と別れ、ユーティディアは肩を落とす。


(はぁ……昼寝が遠のいた…………)


 がっくりと項垂れつつ、ユーティディアは心当たりのある場所へと一目散に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る