5.悪女、未来を知る。⑤
「──思い出したところで無意味だった。やたらと私の顔を見てくる男の事しか覚えてない」
悲しい事にその通りである。
ユーティディアの記憶に婚約者の顔は詳細に残されておらず、その大まかな色味だけが記憶に残っていたのだ。
(まあ、バカな婚約者の事はいいか。どうせそんなに会う事はないんだから。しかし……国王によって決められた婚約者が、いずれ浮気して冤罪で私を追放するのか。改めて思うがあいつ正気か? しかも、夢の通りだと私は不毛の地に身一つで放り出されて──……)
夢の内容を振り返った途端、彼女の頬に青筋が浮かんだ。
「ふざけんなぁああああああっ! なんでよりによって私がそんな自給自足の生活を送らないとならないんだ!? 三度の飯より睡眠が好きな私から最も程遠い言葉だろう、自給自足なんて!!」
枕を殴りながら、ユーティディアは叫ぶ。
「あいつらもそうだ……曲がりなりにも私の弟と従兄弟と幼馴染だろう、何で私じゃなくて色ボケ愚鈍バカ王子の味方をしてたんだ? そんなに嫌われる事をしてたのか、未来の私は?」
すぅっ、と息を吸い込んで、彼女はまだまだ続ける。
「絶対に許さない……っ! 未来の私がバカな婚約者の馬鹿な言動で追放されて、引きこもり実家ライフを奪われ自給自足を強いられたなんて許せない!!」
美しい金色の瞳に闘志が燃え盛る。同時に、彼女は酷く冷静になっていた。
未来の光景にてユーティディアにとっての最大の地雷を踏み抜いたバカな婚約者に一矢報いてやろうと、彼女は持てる頭脳を駆使する事に決めたのだ。
「…………全ては私のため。夢の引きこもり実家ライフのため。私は私のために、死力を尽くす」
まるで自分に言い聞かせるかのように、ぶつぶつと呟く。
「ふ、やってやろうじゃないの。私が追放される悪女? ──なら、追放される前に二人まとめて逆に追放してやるわ!!」
どんなに面倒でも、どんなに厄介でも……いつかの未来で自給自足を強いられるよりかはマシだ!!
未来の悪女は決意する。
いつか馬鹿な奴等のせいで追放されるのなら、その未来を変えればいい。追放される前に、自分が相手を追放してしまえばいいのだと。
まったくおかしな話なのだが、彼女はいたって真面目だった。真面目に、この考えに至ったのである。
三度の飯より睡眠が好きな自堕落な少女。睡眠時間を一秒でも多く確保するために己を最適化した、馬鹿げた天才。
そんな悪意の無い女の名は、ユーティディア・フィン・オデルバイド。
夢の引きこもり実家ライフを死守すべく、非常に重たい腰を上げ、未来の追放回避のためにこれから奔走する事となる。
これは──……ちょっぴりズレたぐーたら女による、間違った方向性の復讐譚。
果たしてユーティディアは、無事に追放エンドを回避して、三食昼寝付きの実家ライフを満喫する事が出来るのか……。
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