4.悪女、未来を知る。④

「今日と言う日を心待ちにしていたぞ、オデルバイド侯爵。そなたの娘の噂を聞いて、色々と心配していたのだが……母親によく似た愛らしさではないか」

「陛下に気を揉ませてしまった事、深くお詫びします。娘はあまり体が強い方ではなくて……普段から、ベッドの上で過ごしている時間の方が多く、外に出る事も少ないのでそのような噂が出回ったのでしょう」

「そうなのか。遥々王都にまで来てくれて感謝する、オデルバイド令嬢」


 決して嘘はついていない。本人が寝る事が好きなだけなのだが、周りの人達は揃ってユーティディアの体が弱いものだと勘違いしているのだ。


「……ティディ。陛下に挨拶を」


 父親に促され、ユーティディアはドレスを摘んで優雅にお辞儀した。


「──王国の光、我等が指導者にして民の太陽。親愛なる国王陛下に、ユーティディア・フィン・オデルバイドが拝謁させていただきたくお願い申し上げます」


 およそ、七歳から出てくる言葉ではなかった。

 美人な母親譲りの可愛いらしい容姿も相まって、ユーティディアの洗練された挨拶にその場にいた誰もが熱く息を漏らした。


(ティディ……! こんなにも完璧な挨拶が出来るぐらい成長したんだな……!!)


 いつも寝てばかりの幼い娘が予想外の成長を見せてくれたので、キリリオルタは感激から目頭を熱くしていた。


「……いやはや、流石は真面目の権化たるオデルバイド侯爵の娘だ。歳に似合わぬ振る舞いで感心するぞ」

「お褒めの言葉、有難く受け賜ります」

「そう堅苦しくするな。本当にオデルバイド侯爵と話している気分になる、もっと歳相応に話せ。俺が許そう」

「ご配慮痛み入ります、国王陛下」


 小さく頭を垂れてユーティディアは一歩下がった。その小さな体を見下ろし、ビリディオン王はほくそ笑む。


(まさか、オデルバイド令嬢がこれ程までに優秀な才女だとは思わなかったな。見た目と言い、その立ち居振る舞いと言い……思わぬ収穫だ)


 将来中々に使えそうな女が息子の婚約者になったな。

 そう、舐め回すようにユーティディアを見下ろしていると、キリリオルタがわざとらしく咳払いをして、


「陛下、そろそろ顔合わせの方に移りたいのですが」


 話を無理やり進めた。

 その後、無事にユーティディアは婚約者となる第二王子サニーハルト・ディンク・モーラ・レジルティアとの対面を果たした。

 しかし……その時点でユーティディアの眠気は最大値まで跳ね上がっており、二人きりで軽く話していた時も睡魔や倦怠感と戦っていたため、全く婚約者サニーハルトの容姿が記憶に残っていない。

 なんなら、自分がどんな返事をしたかも覚えていないぐらいだった。

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