悪魔の門は欲と魔力でできている
「変なことに巻き込まれたなあ………」
俺は魔装術で強化した脚力で夜の都市を駆け抜ける。
『隠者の衣』に身を包む俺は誰にも気づかれることは無いが、背後から聞こえる警笛の音に、小さく肩を揺らす。
「あの規模で街が破壊されたら、騎士団も動くよね」
〈呑め、果ての海〉はやりすぎだったと反省する。
あの球体は俺が自壊させるまで膨張を続け、建物数棟を呑み込み、都市の大地に消せない半円を刻んだ。
加えてガードゥも都市のことも何も考えずに魔術を行使したため、破壊は大きい。
例え騎士団でなくとも、その戦場を見れば超級の魔術師同士がぶつかり合ったと分かるだろう。
「今日の予定はまだあるし、捕まるのは御免だからね」
戦場の近くに特級クラスの俺がいれば、いらぬ
この都市の騎士団は、大多数が学院上がりの魔術師や騎士たちだ。
いくら俺でも油断はできない。
今も、俺がすれ違った騎士が怪訝そうに足を止めた。
俺は『隠者の衣』の認識阻害に加えて、自前でも術式を組む。
だがその時、腕に走る痛みに眉を顰める。
「やっぱり〈呑め、果ての海〉はやりすぎだったな」
痺れるような違和感が残る身体は、〈呑め、果ての海〉の副作用だ。
あの魔術は宇宙から飛来した隕鉄を精錬した結晶体に一ミリ以下の魔術文字を重ね合わせた複合術式を刻み、その内部にため込んだ魔力を全て吐き出すことで、発動可能となる大魔術だ。
あえて威力を抑えたため、建物数棟を呑み込み、その周囲を荒らした程度で済んだが、本来の使い道は都市を滅ぼすような大魔術だ。
威力を抑えたからと言って、代償が無くなるわけではない。
魔術の基本原則は等価交換。
あり得ない世界改変の影響は、俺の魔力制御能力の一時阻害という縛りとなって帰って来た。
それは、魔力という対価だけでは魔術の発動には届かなかったという証明。
未だ魔術の果ては遠いと、俺は苦笑を漏らした。
まあ、鍛錬は帰ってからすればいい。
だが今から俺は、帝国派閥の盟主の屋敷に潜入するのだ。
歯ごたえのある『遊び』が、面倒な『仕事』にまで上がったことに俺は大きく息を吐いた。
俺は認識阻害の魔術を発動させたまま、目標の屋敷の側の路地裏に身を隠す。
そっと顔を覗かせ窺う。
4階建ての大きな屋敷の周囲は、高い鉄柵で囲われていた。
強度よりも見た目を優先した優美な意匠の鉄柵は、乗り越えるも破壊も用意そうだが、侵入者を阻むための本命は周囲を取り囲む人と魔術の防御壁だ。
「中々だね」
俺の感覚で中々ということは、今の俺にはかなりだ。
俺は影から小さな鳥の人形を取り出す。木製それに魔力を注ぎ込むと、ぴくりと動いて彫られた羽を動かして首を振った。
似姿の像を使った簡単な使い魔だが、物質を媒介としたため隠密性は高い。
俺はそれを、飛ばした。
片目を閉じて視界を共有する。空へと広がっていく視界と街並み。そしてひときわ大きな屋敷を覆う結界。
肉眼では視認できないが、使い魔越しに見れば半円を描く幾重もの結界が分かる。
俺は屋敷の構造を見ようとする。潜入した後のためだ。
だが…………。
「モザイクみたいだなぁ。まあ、のぞき見対策ぐらいはしているか」
色も形状もバラバラのパーツを組み合わせたような歪な屋敷の姿が視界に映る。
「……認識阻害じゃなくて、屋敷の概観を分解してランダムに結界の外殻に張り付けてるわけか」
原始的な鏡写しの術式だが、その分介入の隙は無い。
力任せに干渉すれば抜けるだろうが、それをすれば敵対者ありと教えるようなもの。
この手のひねりのない術式は好みではないが、圧倒的な魔力リソースを持っていれば最も堅牢で安全な仕組みだ。
「本命の結界術はどうかな?」
俺は使い魔を操作して、屋敷の真上に移動させようとする。
外敵を阻む結界を解析するためだ。肉眼ならともかく、隠密性を重視した使い魔越しなら、近づかないとよく見えない。
だが使い魔が屋敷に近づいた瞬間、視界の接続が途絶えた。
「―――ッ!びっくりしたぁ……」
火花が散った視界を咄嗟に抑えて、驚きの声を漏らす。
俺は術式をさらに強化し、隠密性を高める。
使い魔が屋敷を探っていたことに気づかれたかもしれない。
だが、屋敷の周囲を囲む警備員が大きく動く様子は無い。
「…………敵対派閥の使い魔だと思われたか」
俺ほど使い魔を屋敷に近づけた者はいないが、周囲を窺う小動物や実体のない魔力体は両手で数えきれないほどにはいる。
試験期間中でよかった。
「できれば結界の全体像を見たかったんだけど………」
使い魔が撃退された以上、仕方がない。
体が十全でない以上、無理はしない方がいいだろう。
俺は現在地から身を乗り出して屋敷を覆う結界を見る。
隠密の技能など持たない俺では、顔を覗かせるだけでもリスクがある。
だが使い魔が一度撃ち落とされた以上、仕方がない。
実は泳がされていて、次の使い魔の軌道から俺の位置を探るつもりかもしれないのだ。
もう使い魔での偵察は無理だ。
急に矢や魔術が飛んでくる覚悟をしながら屋敷を見ていたが、幸いなことにそれは無かった。
「ふぅん………なるほどねぇ」
結界は大きく分けて三層。それを連結する補助術式が5つ。
どれか一つを破壊、解除しても、他の術式がそれを察知して警告を発する、って感じだ。
「うん。解除は無理だ」
俺は諦め交じりに頷いた。
結界の構造自体は汎用術式を組み合わせただけの単純な物体感知と停止術式の組み合わせだけだが、バレずに穴を空けるためには補助術式5つと三重の結界に同時に干渉する必要がある。
三重の結界に同時に術式を刻むのは可能だが、問題は5つの補助術式だ。
東西南北、そして頂点に起点があるせいで、そこから干渉する必要がある、が………。
「反動が残ってるから反対側に干渉するのは無理だ」
情報世界に影響を及ぼせる範囲は決まっている。今の俺では5カ所同時に干渉することは出来ない。
「解除した瞬間、バレるね」
俺は厄介な結界に天を仰ぐ。
今日はつくづく『結界』に縁がある日だ。
かたや認識できない謎の結界、かたや正統派巨大結界。
方向性は逆だが、手に余るのは同様だ。
だがこちらの結界は工夫が無く、解析しても得る物はない。
「………せめてもう一人、魔術師が居ればなぁ……」
怠惰の悪魔、ベルドーナの部下であるトリエを連れてくればよかったと、今更後悔する。器用で何でもできる彼女は、悪魔らしく魔術も大得意だ。
彼女も『彼岸花』の一員としてアルフィア学術都市に来ているが、何でもできるのが災いして、ベルドーナには悪魔の纏め役を任され、エリスにはモルドレッド教団排除作戦の補助役を任されている。
アリスティア家の中で今一番忙しいのは彼女だろう。
それを思えば、どの道彼女の力は借りられなかっただろうと自分に言い聞かせ、納得する。
どれもこれも異常に強かった黒衣のせいだ。彼女のせいで俺は切り札を一枚晒す羽目になったのだ。
「潰される前に見た使い魔越しの視界では、警備をしているのは学院生が7割に連れて来た護衛役が3割ってところかな?」
顔立ちの若さからそう推測する。
数が多いのは問題だが、若いのは素晴らしい。それは実戦経験が少ないということ。つまり、行動を推測しやすい。
なら、力押しでいい、と俺は笑みを深めた。
その笑みはきっと、悪戯を披露する子供のように、邪悪に歪んでいただろう。
俺は影からチョークを取り出す。それは真っ赤に染まっており、犬や狼と言った嗅覚の鋭い獣人が嗅げば、血の匂いを感じ取っただろう。
俺はそれを使い、路地裏の幅いっぱいが埋まるような円を描いた。
そして中に古代文字を描いていく。人間は大昔に使わなくなったが、妖精人や魔人種などの長命種の一部では現役の文字だ。
歴史を遡れば、四千年以上前、まだ魔術が生まれる以前から使用されていた文字であり、その誕生は悪魔との交信のためだ。
多くの文字や文化が生まれ、消えていった魔術黎明期を乗り越えたのが、悪意の塊であるその文字であったことは、皮肉そのものだ。
だってそれは、人が悪魔という万能の聖杯を捨てられなかったということなのだから。
「それを皮肉る資格は俺には無いんだろうけどね」
くすり、と笑みを浮かべ、ベルドーナの血を固めて作ったチョークで文字を描きながら、俺もまた血に塗れた因果に組み込まれ、悪魔の思い通りに動いていることを頭の片隅で実感する。
俺は数分かけ、全体を仕上げ、最後に中央に円形の輪を描いて終わらせる。
その円を描いたチョークの粉が、どろり、と溶ける。それは次第に意思を持つように蠢き、方陣を呑み込んでいく。
血の池。それが一番当てはまるだろう。
俺はそれに、青白い結晶を放り投げる。
粘性の強い液体に沈むそれは、魔鉱石だ。魔力が物質化し、結晶化したものであり、自然が生んだ魔力タンクと言える。
それを門を維持するための対価として支払う。
召喚する悪魔は低レベルの悪魔たちばかりだ。ひとつの魔鉱石ぐらいでも、数十分は維持できるだろう。
まあ、魔鉱石の一つ、と言ってもエリーゼ半島で掘り出したものだから最高純度の品だ。
出すところに出せば、平民が一月ぐらいは贅沢して生きられるぐらいの値段になるだろう。
供物を受け取った門は、ぼこりと表面を波打つ。
そしてその中から異形の怪物が這い出して来る。
人型と獣の間のような不気味な尾を3本持つ獣、やせ細った体の死骸、不定形の身体を持った腐肉など、多種多様、言い換えれば雑多な悪魔どもが這い出てくる。
「あの屋敷を襲え。いいな?」
あの門を作る術式には、俺の命令に従わせる服従術式も組み込んである。
門をくぐった悪魔は、俺に従うはずだが、悪魔の動きは鈍い。
中には俺の命令を受けてすぐに、屋敷の方へと向かったものもいたが、それは少数だった。
「知能が低いのか……。もっと質のいい門にするか、フィルターをかけて知能が低いのは弾いた方がよかったか?」
そう考え、すぐに脳内で否定する。これ以上強くすれば死人が出るし、門を通る悪魔を選別するだけのカスタムを俺には出来ない。
悪魔術も使えはするが、錬金術ほど得意でもない。
これ以上を望めば破滅しかねないと自信を戒める。
悪魔術は呼び出した悪魔に襲われたり、契約を利用して肉体を奪われるなどのリスクが付きまとう危険な術だ。
基本、どこの国も禁術指定しており、師匠にも扱いには気を付けるようにと、厳重に言われている。
「こういう小さな望みから、破滅していくんだろうね」
悪魔というのは一種の麻薬に近いと俺は思う。
召喚は容易であり、悪魔の種類も多様。
そして契約で簡単に縛ることができ、神崩れのモンスターや土地神なんかと違い、契約を破ることは無い。
その便利さから悪魔を多用して、初めは小さなお使い程度だったのがエスカレートし、最後には自身の破滅しかねない欲望まで託し始めるのだろう。
その先に待つのが破滅だと分かっていても。
自分も気を付けよう、と「これをボクだと思って大事にしてよ!」と俺の部屋のお菓子を食い荒らしながら赤いチョークを差し出してきたベルの顔を思い出しながらそう思った。
「そして………出ろ」
俺は影の中から、ティンダロスの猟犬どもを取り出す。
黒い毛皮の魔犬は、尖った舌を垂らしながら腐敗した体液を溢している。
「お前たちは門を守れ。誰も殺すな」
そう言うと、犬たちは俺の顔を見て、小さく頷いた。
こいつらも悪魔だが、今も門から湧き出している低級悪魔と違い、ベルの仲介が無ければ呼び出せないような高位悪魔だ。
知能も人間並みに高く、空間転移という高等能力を群れで備えている希少な存在だ。
俺が呼び出した悪魔は、物質に受肉させたわけではなく、門の術式で顕現させた仮想体だ。
門を破壊されれば現世との楔が消え、魔界へと帰る。そのため、俺の用事が済むまで、門を破壊されるわけにはいかないのだ。
「じゃあ、お願いね」
俺は魔装術で強化した脚力を活かして、騒ぎ出した正門と反対側に回った。
◇◇◇
帝国派閥盟主、マイン・レットが住まう学術都市の屋敷は今、混乱に包まれていた。
公爵家の威を示すべく正門に構えられた重厚な門に吸い込まれるように、異形の悪魔たちが駆けていく。
「魔術を使う場合は範囲攻撃を避けろ!ここは市街地だ!」
屋敷の警備を任されている公爵家の家人は、学生交じりの警備部隊に向けて、警告を発する。
その一声で、異形の怪物に嫌悪感を掻き立てられて狼狽えていた学生たちが魔術を暴発させることは無かったが、その動きはまばらだった。
悪魔に怯むことなく、切り伏せる帝国派閥の生徒もいれば、杖を抱えて蒼白な顔を晒している者もいる。
その結果、石の通路を埋め尽くすように迫る悪魔の群れを受け止める防御陣は上から見れば途切れ途切れになっていただろう。
(くそっ……!これでは魔術で掃射できん……!)
家人は、苦々しく唇を噛む。
公爵家の警備を任されている使用人の部隊は、家人の命令に従い、整列して連携し、悪魔を迎え撃っているが、帝国派閥の生徒たちは違った。
彼らは試験のために盟主を守るべく臨時に組まれた部隊だ。連携など取れず、中には実戦経験が乏しいものも多かった。
怯えて持ち場を下げるものはまだいい。問題なのは低級の悪魔を切り伏せ、先に先にと先行する者だ。
彼らが敵陣に深く食い込んでいるため、魔術師たちが砲撃を躊躇っている。
今はまだ狭い通路を活かし、悪魔を封じ込められているが、いずれ破綻することは目に見えていた。
家人の部下の一人が駆け寄り、困惑を露わにする。
「どうしますか!?これではっ」
「……他の持ち場の者も呼べ!隊列はこのまま維持だ!」
狼狽える部下の声に、家人はすぐさま命令を下す。
その指示は的確だった。
部下は魔具を使い、すぐさま家の周囲にいた公爵家の使用人たちを呼んだ。
学院の生徒たちはそのまま待機させ、警備を最低限守り、命令系統が確かな兵士だけを集めた。
「先行し過ぎた生徒の背後を守り、戦線を押し上げろ!」
新たな命令に従い、使用人たちは武器を抜き、前線に向かう。
家人は部下の隊列を前進させ、全体的な戦線を押し上げていく。
そして背後から迫る兵に疑問を抱く生徒たちには、指示を出す。
「騎士は前に、魔術師は私の合図を待ってください!使用魔術は引火性のない非範囲魔術を!」
彼の支持は巧みだった。
生徒のコントロールが不可能だと見ると、すぐに先行し過ぎた生徒に合わせるように戦線を合わせ、フォローを飛ばす。
そして急な作戦の変更に狼狽える魔術師たちの疑問は、間髪入れない指示で黙殺した。
先行していた騎士科の生徒たちを、使用人の兵が連れ戻す。
じわじわと前線と後衛部隊の距離が縮んでいき、誤射が無い射角が取れると判断した時、彼は叫んだ。
「発射ああ!!」
野太い声が木霊し、様々な属性の魔術が、矢が、投石が悪魔たちの頭上から降り注ぐ。
低級の悪魔にそれを防ぐ術はなく、次々と潰れ、地面に汚い染みを残した。
「よしっ!これなら……」
後はいったん背後に下がり、同じことを繰り返せば、被害なく悪魔を始末できると彼は判断する。
後退、と指示を出しながら、家人はこの状況について思考する。
(誰の差し金だ?)
揃ったような低級悪魔の群れに、周囲の建物や人間に興味を抱かずに屋敷に突撃する異常行動。
家人は悪魔を指揮する何者かの影を感じていた。
だが考える時間は残されていなかった。魔力灯でも照らしきれない暗い通路の奥から、次の悪魔の群れが溢れ出してきた。
再び前衛の剣が斧が、槍がぶつかり合い、血と悲鳴を上げさせる。
「―――ッ!またかっ、どうなっている!」
溢れた悪魔の数は、明らかに路地裏に収まる数ではない。
魔術に疎い家人は、そのあり得ない現象に、夢の中に迷い込んだような思いを感じて、めまいを感じた。
彼の叫びは答えを求めたものでは無かった。
だが指揮官である彼の前方にいた後衛の一人が、おずおずと家人を見上げた。
「えっと、悪魔召喚の門があるのかもしれません……」
そう言った小柄な女子生徒に、家人は険しい視線を向ける。
「門とは?」
「あ、はい。魔界との連結路を作ることで、向こうの悪魔を呼び出すんです。門を破壊すれば、悪魔は消えると思います」
門があるかも、といいながら彼女はかなりの確率で門が存在することを確信しているようだった。
家人もそれに気付いた。
魔術学院に通う魔術師の言葉だ。信ぴょう性はあると、考えた。
「場所は分かりますか?」
「い、いえ。ですが悪魔出現による周囲の混乱が少ないということは、近場に門があると思います」
それを聞いた家人は、力強く頷いた。
「なるほど。……身軽な戦士たちは、建物の上から周囲を探ってくれ!悪魔を呼ぶ門があるはずだ!」
彼の指示に従い、軽装に身を包んだ騎士科の生徒や彼の部下が、悪魔のいない建物の屋上を飛び石のように移動しながら路地裏を探っていく。
頭上の獲物に気づき、建物を登ろうとする者には、矢や魔術の矢じりが降り注いだ。
順調にいっていると家人は安堵する。
だが1人の軽戦士が、隣の建物に飛び移ろうと跳躍したとき、彼は黒い影に、叩き落とされた。
「あがッ……!」
落ちてきた彼を、下にいた前衛が受け止める。その表情には困惑が色濃く映っており、慌てて頭上を見るが、そこには何もいない。
ただ、黒い夜だけが満ちていた。
「き、気を付けろ!何かいるぞ!」
悪魔に混じって何かいる。それを、後方で全体を俯瞰していた家人は気づいた。
凄まじく早く、神出鬼没な影が、奥へと進み過ぎたものを追い払っている。
前衛をなぎ倒したと思えば、悪魔の影に隠れて消える。
そして次は頭上の軽戦士を振り落とす。
そんなあり得ない動きをする生物を、家人は知らない。
その影はティンダロスの猟犬だ。
知能の高い猟犬たちは、家人の指示を聞き、門に近づく者を倒していた。
凄まじい俊敏性で騎士科の学生の動体視力すら振り切り、鋭角から鋭角へと転移を繰り返し、奇襲をする。
暗い色の体毛も合わさり、夜ではまともに視認することは出来ない。
「あれも悪魔か!?」
一筋縄でいかなくなった状況に、家人は唇を噛む。
得体の知れない敵に気づくものも増えて行き、場に混乱が広がる。
混乱は恐慌を招き、戦線が再び崩れていく。
(学生というのはどうしてこうも……!)
指示に従わない学生たちに家人は漏れそうになる悪態を飲み込んだ。
「指示を!」「むやみに魔術を撃つな!仲間に当たるぞ!」「次は!?あの黒い影は!!」
同士討ち仕掛けている前衛。混乱する後衛。彼らを押し留めるのに精いっぱいで悪魔を打ち漏らしている使用人。
そしてそれを助長するように暗躍する黒い影。
場は混乱を極め、家人にも戦う生徒や使用人たちにも、背後の屋敷のことは意識から消えていた。それが彼の願い通りだとも知らずに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
中途半端なところで終わったので、続きは数日以内には投稿したいと思います。
ぜひ、優秀な家人さんの行く末を見届けてあげてください!
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