第2話

 ここは播磨国の三草山といって、かつては源氏と平家が争った戦場でもある。服部半蔵が大御所の命を受けてこの山の麓を訪れたのは、林の奥の小屋で暮らす奇妙な老人に会う為であった。彼は近辺から観音爺さんと呼ばれているのだが、意外にもこの時勢において、権力の側にとっては無視できない存在になっていた。要はこの観音爺さん自体が危険極まりなく、その理由は彼の正体が杉谷善住坊だという仮説である。

 

 杉谷善住坊は鉄砲の名手で、今から四十年ほど前に近江国で織田信長の暗殺に失敗しているが、それは紙一重の差であった。その後、徹底的な織田軍の捜索で善住坊は捕えられ、鋸引きという残忍な刑で憤死している。ところが殺されたのは善住坊の身代わりの別人だという話が、徳川家康の耳に入ってきたのは、ほんの数ヶ月前のことだ。無論、そんな仮説がでてきた背景には、政局において暗殺の必要性が生じたからに他ならない。


 そしてその標的は当然、かつての織田信長同様に大物になろう。つまり仮説を鵜呑みにして動き出したのは、徳川家康に最大の脅威を感じる淀殿が仕切る豊臣氏であった。

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