第3話

 これから杉谷善住坊らしき老人に会おうとしている服部半蔵は、初代から数えて三代目に当たる。ただし、公の場で祖父と父から受け継いだ半蔵という名を使う権利が彼にはもう無い。それは今、公式に服部半蔵を名乗れる人物が四代目となる彼の実弟だからだ。しかし久々の対面を果たした大御所の徳川家康はそんな事実を半ば忘れたように捨て置き、彼を断定的に半蔵と呼んだ。

「……半蔵、そなたの此度の役目は重い」

 大御所は半蔵と呼びかけながら、最後に釘を刺すようにそう言い放った。確かにその通りだ。もし観音爺さんとやらが、本物の杉谷善住坊だとしたら、徳川家康の生涯が暗殺で幕を閉じる可能性さえある。


 林道に佇む半蔵の目に、黒々とした木が交差するその太い幹の隙間から、遠景の燃えるような山の紅葉が少し鮮やかさを増したように映った。それは彼に微かな覚醒をもたらした。晩秋の風景に、過去の記憶が過った。その時、彼は妻と舅の三人で和やかに庭の紅葉を眺めていたのだ。慎ましい幸福を感じる瞬間であった。ただその懐かしい記憶のせいで、半蔵は一種捉えどころのない違和感を覚えた。この重要な任務は急に降って湧いたような話だが、表の事情だけではなく、実は何か裏があるのではないか。

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