第3話 神奈川県箱根町

 小田原市消失いやレディ・バニッシュは、2月17日から状況解決の様子も無く、3月1日を迎える。


 この間の出来事は、大停電を回避する為、消えた存在に通話出来ない様に、キャリア規制で相互アドレス確認している端末のみでの通話に再セットアップした。ただこれは日本国全土で適用されてしまう。

 ここでそれでもの通信手段として、固定番号を辛うじて残す、古のFAXが再び活用される。FAXの使い方が分からないと、辛うじて知ってる俺に感謝されてもは、何かなはある。

 そして、続くレディ・バニッシュ現象は起きず、消えない存在である、小田原市の昼間の人口16万8千人の肉体は戻らず、残された精神と融合する気配を一向に見せない。


 ここ迄の大会議の議論では、密林小田原市での測量、C14年代測定法で未知を踏まえた上で、同時空間軸上ならば、空間転移先は2990年代との目安は付いた。ここで全否定の声が出なかったのは、未だ密林小田原市が存在している事が大きい。

 頼むから、時間軸の揺り返し、神の采配を是非と、皆がどうしてもすがるが、その引き寄せ要因が一切見当たらない。

 そうなればの危険なフィールドワークになるが、密林小田原市は小田原城からの半径3kmであっても、未知の細菌を踏まえると、中央部に辿り着くのは困難で、日々延伸しての漸くの調査隊の帰投だ。

 勿論、衛星写真、ドローン調査、低空偵察を続けるも、何せ密林であることから、木々しか無く。赤外線調査がやっとで、反応するのは、腹が減ってきた擬似猛禽類がかなりいるかのゲンナリになる。


 小田原市に発した状況は、未だ神奈川県全域に厳戒態勢が敷かれる。次第に退避疲れから、無理に帰宅する住民らと衝突をどうしても繰り返す。内閣府ならではのやんわりとした通達と、援助物資際限なく送るも、どうしても、消えない存在のタイムアウトは迫っている。

 そう言う俺も、家族から自衛隊を介しての差し入れを貰い、折に連れオンライン通話するも、無事なのより何やってるのと訝しがられる。それはそうだ。いい大人が、大停電で自宅マンションに帰れないなんて、どうにも説明出来かねない。


 そんな3月1日に小田原市隣接地域箱根町への取材が、漸く許可される。密林小田原市に入れないものの、山に登れば、密林小田原市を撮れて感触を得られる。それだけで、何かしらの提言は出来るかもしれないと思った。


 当日、横浜プリミティブホテルを、5ドアのスズキジムニーアクィナス出発するに当たって。同乗するのは、俺達福陽新聞の俺三枝桂樹と宅間勝亘、陸上自衛隊陸曹長一戸寛治さん。ここの出発間際に、あの見た目大学研究室の若手お局様かのベリーショートの女性が、俺のいる後部座席に滑り込む。


 そう何かと見かけるも、捕まらない、いや何故か最大警護されている。ミステリアスそのものだ。

 彼女はリオン・ライトマイヤーと名乗る。見た目は質素、やたら透明感のある日本人で、名前そのままドイツ人らしさは感じられない。

 一戸さんの、然もありなんの接し方が、短くも長い付き合いから察してくれと投げ掛けられる。ややの談笑しつつ、俺達はドライブを共にする。


 この道中で、同盟国部隊が何かと目に入り、擬似猛禽類駆除も大変だなと。隣接地域に拡散しない様にただ願うしか無かった。

 そして、辛うじて消失していない道を大きく迂回しながら箱根町に入り、箱根山への山道を登る。

 雪がちらついた時期にレディバニッシュが起こり、未だ低温が続く異常気象は別に今に始まった事では無い。箱根山はうっすら5cmほど積り、吐く息もただ白い。今日は根気がいると、多めに着込んできたが、それでも肌寒かった。

 箱根山から一望出来る、密林小田原市の景観は、手元の過去写真とは途方も無く相違し、人類が滅亡したらこうなるかと、不意に呟いた。そして、リオンさんが事も無げに。


「そうよ、推定2990年辺りの原風景はこんな感じ。現代の方は何を言うかでしょうけど、昔砂漠の中東と呼ばれた、新緑のバビロニア連立王国で、皆肩を寄せて生きてるのよ」


 まさかがチラついたが、一戸さんがお構いなくの視線を送るので、俺は敢えて問う。


「リオンさんは、まさか未来人なのですか」

「まさかもの何も、見たままですけど。そう、小田原の方の肉体が未来に行ったのならば、また未来も然り。うっかり来てしまう事も有りますよね。まあ、空間安定期を何度も測定して、見計らったのに、まさかの、なんですけど」

「でも、精神も肉体も共になんて、どんな鉄則があるのですか」

「2990年代ともなれば、惑星間輸送もされているので、インナーも進化しています。対重力、肉体補正、皮膚呼吸補助、絶対保温、何よりは、メディケーション調整でしょうか。この全てがあればこそ、時間移動の衝撃も和らぎ、精神と肉体が分離しなかったですね。まあインナーの長い説明書通りでしたけど。元日本由来のアパレルは優秀なんですね」

「俺は、こう、御厨専任次長にかつがれているのですか」

「まあ、御厨さんは取っ付きにくいので、そう言う見方にもなりますよね。Sci-Fiでの有りがちな守秘義務も無いですし、掻い摘みますね」


 遠未来人リオン・ライトマイヤー。先祖は日系の天然振り。実業は植物学で、東方の旧小田原地方を散策中に時空間移動に巻き込まれ、2035年に訪れる。

 そのまま密林小田原市で出口を探しているうちに、同盟国救助隊に救出される。

 審議を経て、信じますか。信じるも何もこの状況なら受け入れましょうと御厨専任次長の元でオブザーバー役に収まる。ただ現在の肩書きは、帝都大学の植物学講師を貰っていると。帝都大学自由だは置いておく。

 そして、掻い摘まれたこれからの歴史。


 2385年、ベルトクライシス。共産国側が局地戦を分断させる為に、赤道前後の軌道エレベーター拠点を、異空間断裂爆弾で歪ませる。

 2445年、同軸時間転移開始。異空間断裂爆弾で歪ませた事で、副産物として無作為の時間交差が起きる。着弾地点そのままで、時間交差は、初期性能故に法則性は無い。

 2500年、地球異常気象である冬枯れが始まる。短期局地的な氷河期が到来し、生物の芽が断たれて行き、生活圏は赤道近辺に。ただストームは定期的に訪れる。

 2650年、惑星間輸送による、惑星改造計画が始まる。

 2700年、火星遺構発見。それは異星人による惑星改動所で、全力で異星人語を解読をし起動させたところ、1年で火星に植物が芽吹き、酸素濃度も上がる。同じタイミングで、太陽系で火星だけである筈がないの推論から、各惑星の同緯度同経度で惑星改動所を同じく発見発掘し、あらゆる生物は恩恵を受ける。


「そうなのよね。年齢としては38歳なのだけど、火星を7往復するとコールドスリープしてしまうから、見た目が若くて。ああ、ここは自慢ではないですよ」

「いや、美しいと敢えて言いますが、酷く受け容れ難いのですけど」

「もう、三枝さんたら、嬉しいな。それでも、未来から無一文で来たので、お金一切持ってないのですよ。どう生活したら良いやら」

「そこは、帝都大学の講師さんですよね」

「それも困ったものです。遠未来から来て、学生さんに教えろなんて、無茶ですよね。いやあ、最低でも半年掛かって生活に馴染めるかの資金がでして」

「おい、宅間。お前家に帰ってないだろう、一部屋貸してやれ、ついでに結婚しろ」

「三枝さん、ええー、姉さん女房、と言うより、未来人。いや、そうじゃない。ええと、身長は辛うじて同じ、俺の頭の回転はややも、そう取り入るのは上手いです。お金は、使い道が無いので、二人分暮らせます。OK。家庭には、仕事忙しいですけど、必ず帰ります。いいや、それも違うな、リオンさん現代に居残ってくれなんて、虫が良すぎますよね」

「まあまあ、宅間さん、これもご縁です。2990年代に帰っても、やたら狭い界隈ですから、当局としては現地結婚有りにしています。それが何か」

「おいおい、おい、この俺がか、所帯持っちゃうの、」


 その遠未来の当局が気になった。宇宙を自由に行けるのならば、時間移動もも当局ならば可能な筈だ。


「リオンさん、その当局ならば、小田原市の昼間の人口16万8千人を、現代に時間移動させられますよね。ここはオフレコでも見解を聞かせて下さい」

「肉体の移動は可能でしょう。消えない存在、精神との再融合に頭を悩ませていると思います。火星遺構の論文でテレポート装置を見つけていますが、それを駆使すればでしょうか」

「可能性としては、」

「2段階承認経て、アップデートは出来る筈です。あとは現代に干渉して、どう自然に見せるかの配慮のみです。あっつ、あれはオーロラですかね。今の時代の緯度でも見えるのですね」


 リオンさんの示した方角に、まさかの夕方での極彩色のオーロラが見え、小田原市の真上をはためく。この日本、この小田原市でなのか。

 それはこれだけ寒ければもあるが、毎年この寒さが続くとなると、そちらの方で、大きく溜め息を吐き、たちまち凍る。天使のささやき、ダイヤモンドダスト。

 リオンさんの年代史で言えば、短期局地的な氷河期が、かなり先に到来すると言う。頼むから、それは前兆現象でも、本当の先であって欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Lady Vanish 判家悠久 @hanke-yuukyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説