第2話 神奈川県横浜市
2月17日のレディ・バニッシュから1週間かけて、日本とアメリカの同盟国サイドは、神奈川県大停電の精査として、雪混じりの天候を窺いながら隣接都県に全神奈川県民を誘導する。
その際の提供情報としては、何よりは行方不明者も多々の大停電故に、それは日本国民を守る為の規制とした。
レディ・バニッシュ調査委員会の拠点は、横浜市外苑にある純国産ホテルの横浜プリミティブホテルを全棟確保された。緊急時の拠点はここと、プリミティブホールディングとは何かと結託しているらしい。
本来ならば、神奈川県庁舎に詰めるべきだが、クラシカルな神奈川県庁舎に、全国からの精鋭が駆け付ける以上手狭になる。もっともたるは、何人たりとも、神奈川県知事美咲史織から何事も逃れたいがありありだ。
美咲史織は30代初めに社会派タレントから立候補し、その容姿端麗と抜群知名度からトップ当選。昨年の2期目知事選当選も、有りがちな何でも改善に徹せず、自らの融和ポリシーを織り込み、保守派と改革派から絶妙な距離を置かれながら、体制を盤石にする。
この勇躍振りから全国知事会会長のお飾り的存在に置かれる。大きなパトロンがいるからのそれではなく。まずトップに置いておけば、持ち前の暴走も悔い改めるだろうだ。それはそれで歴戦の猛者揃いの知事会だ。
しかし、その美咲知事外しの目論見は外れる。神奈川県民総退避を発令した以上、神奈川県庁舎も1/6程で職員を抑制する事で、それはそれで手持ち無沙汰にもなる。その成り行きから、美咲知事は横浜プリミティブホテルに乗り込んでは、小ホールを勝手に抑えた。そうなると、ご機嫌如何ですかしておかないと、あちらから挨拶にやって来るので、一緒に行こうかと、顔馴染みと暇を見つけては日参する。その折々で。
「そう。まだ、合坂小田原市長とは通話出来るの。でもね、周りは真っ暗なんて、そこから話がね。レディ・バニッシュ調査委員会のゴーサインで、小田原市の昼間の人口16万8千人も消失してますと切り出すと、号泣なのよ。その消えない存在とはを、倫理委員会でも議論になるけど、その明瞭な会話、とても霊体とは思えないわ。復活の目安としては臨終から葬式迄と言われるけど、既に1週間。もっと痛烈なショックを与えないと、肉体と魂が融合しないものかしら。どう、三枝さんの見解としては」
どうも何も、消えない存在は通話上では存在する。AI複製音声を交えた大掛かりな犯罪かになるが、小田原市全域が密林になっている以上、超常現象の一択でしかない。
故に、日本各地から集められた精鋭の一通りの解釈も、超常現象大前提もっともと頷ける。
「三枝さん、いた。まずいです、アーチ放送の連中が、消えない存在と対話しています。あいつら、どこをどうやったら、アドレス入手しやがって。ああ、兎に角来て、」
俺を呼びに来たのは、同じ福陽新聞の宅間勝亘。行動市民団体数々を逐一スクープしてはのクレバーさだ。2月17日は横浜市で夜を徹して取材していた事から、本社の俺と合流しバディとなる。まあ、その口伝いと行ったら、若いのに良くもネットワークが手広い。
俺達は、朱雀の間のメディアセンターに雪崩れ込むと、皆が苦虫を潰しては、大型スクリーンを見つめる。
現在、消えない存在と話しているのは、オンラインのアーチ放送の午前の人気ワイドショーだ。地上波ではしがらみが多くて、倫理を飛び越えられない事から、何かと物議を醸し出す。
朱雀の間では、何が起こる、まずい、の談義が交わされて行く中で、キャリア、が微かに聞こえた。
詰めているキャリアの派遣要員が雄叫びを上げる、回線間も無くパンクします。当然だろうになる。
この放送を見て、小田原市の昼間の人口16万8千人漏れ無くに通話されたら、交換センターがパンクするに違いない。サブモニターにキャリア側の通信リアルグラフが表示される。それはうなぎ上りの大凡10乗で、メディアとしてのインターネット節目50年を迎えようとすると、それはそうだろうなと高をくくっていた。
バチン、鈍い電子音が数多にも聞こえ、照明が落ちた。横浜プリミティブホテルは停電回復地域として最優先に復活していたが、何で停電がだった。
照明が、蓄電施設期の半分の量に戻り、ざわめきが続くと、キャリアの派遣要員が解説する。小田原市に向けての通話殺到で、交換局自体がシャットダウンし、推定神奈川県全域のブレーカーが落ちましたと。
携帯端末は使えるが、何処にも繋がらない、ただの照明装置になっていた。
そして傍でキャリアと囁いた、大学研究室の若手お局様にしては麗しい女性が、丁寧にお辞儀しながら。
「まずいですね。この電撃で、消えた存在が、オールダウン、本当に消えた可能性が無きにしもあらず。ああ、でも、この時代の方々って、立て続けの災害には強い筈ですから、運が良ければ通話出来ますよね」
ベリーショートが軽やかに揺れると、何を嬉しそうにティー会場へと小走りに駆けて行った。
いや、何気に凄い見解何だが、宅間と呟こうも。
「いやあ、三枝さんも凄い別嬪さんと知り合いですよね。実にいいな、懇親会とかセッティング出来ないですかね。ほら、俺の為にどうか頑張って下さいよ」
と敢え無く伝手は消えた。
果たして、通話シャットダウンはキャリアが回復しないものだから、解決策及び取材は、足で稼ぐしか無かった。その足もただ手順がある。
最初こそ、密林となった小田原市が素早く鉄条網で封鎖されたが、迎えた3日で神奈川県全域が車両のみの移動になった。その原因になったのは、異空間からの擬似猛禽類の闊歩だ。シンの名のつく、イノシシ、オオカミ、トラ、クマと、もう一般人には太刀打ちの仕様がない。
その為、派遣チームには最低一人の自衛隊員が随行する。俺達福陽新聞には、陸上自衛隊陸曹長一戸寛治さんが、5ドアのスズキジムニーアクィナスの運転手を兼ねた案内役を務める。
一戸さんはベテラン中のベテランで話は軽妙、あの東日本大震災に出動したと言うから、あの時幼かった俺達の世代ではもうヒーローそのままだ。
因果な仕事ですねと事あるごとに何かと畳んでしまうが、不思議と戦争が無いのは日本人の敬愛すべき人柄でしょうと、諭されてしまう。
そして話題となるのが、そこらでつい見掛けてしまう、擬似猛禽類の駆逐だ。普通の銃器では、素早過ぎて間合いに入られてしまうので、ライフル銃一択、拳銃なんて一切役に立たないになる。とは言え私はあれですけどねと、バックミラー越しの日本刀二振りに視線を送る。
一戸さん曰く、擬似猛禽類は銃器の反応が異様に早く、鉛の銃弾以上の何か。辛うじて言えば、アーリーレーザーライフルの回避行動に近いと。そして、そこ迄回避本能が身体に刻まれているのならば、相当な未来から来たであろうだ。
ここでただになる。鍛錬こそ全ての日本刀になると、距離感を見誤り、実技数段者なら成敗は出来ると言う。相当な未来では、実刀など不便極まりなく喪失しまってるのが、時代ってそんな感じなのかになる。
一戸さんの決め台詞としては、旧石器時代並みに棍棒もいけると思いますと言うが、これで助かった事がある。
まさか雑居ビルの中迄、シンニホンオオカミが侵入していると思わず、囲まれ、咄嗟の傘で有段者に見えるかの構えをしたら、シンニホンオオカミが怯んで逃げて行った事がある。
いつか、陸上自衛隊陸曹長一戸寛治、いやヒーローの回顧録を出させて下さいと懇願するも。
「怖い話は、最近の子供は嫌がりますからね。とは言え、こんな不測の状況も有りますから、防衛省レディ・バニッシュ調査委員会専任次長御厨比佐志の許可が降りればでしょうか」
御厨専任次長。この名を聞くだけで、皆が堪らず目を逸らす。第二、第三のレディ・バニッシュを踏まえた上で、正確かつ綿密な報告を上げて欲しい。こんな未知の状況に、日本人、いや世界の各人がどう立ち向かえって言うんだ。
運よく逃げるしか無い。次のレディ・バニッシュは、迫るその先かもしれないが、さてとしか終えようがない。
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