Lady Vanish

判家悠久

第1話 神奈川県小田原市

 神奈川県小田原市ほぼ全域及び消失したのは、2035年2月17日12時12分が始まりと、絞り出された証言記録になる。そして小田原市の人口18万人のうち昼間の人口16万8千人も消失した事になる。


 発端は、その昼間の発生時刻に、神奈川県全域及び、東京都静岡県山梨県の隣接地域が回復困難な大停電の初期の報道になる。

 関東圏でも雪がちらつき、今ではありがちな真冬の発電所のピークアウトかが最初の報道だった。

 ただそれも、各変電所を点検で見回ったが、特段の異常は見受けられなかった。その時点では。送電線の迂回機能に切り替えど、どうにも復旧しない。

 夜間へ向けての氷点下が迫る中、神奈川県の停電難民は点灯区域に向けて、神奈川県の880万人が隣接地域へと移動し、今度は交通渋滞が大発生する。ここで内閣府は不測の事態で事故回避の観点から留まるようにと通達を出すが、更なる脱出に拍車を掛ける。

 内閣府もまるで阿保ではないので、事態収拾付かずだったら、取り敢えず宣誓しておこうかが、正しくも官僚的だ。


 そして、狙い澄ましたかのように、深夜3時にニューヨークの報道番組発のニュースが躍り出る。

 日本の神奈川県小田原市全域が消失。その大影響で日本の首都圏が大停電から発するパニックに襲われる。これを受けて、不測の事態に備えて、在留アメリカ軍基地に緊急出動が発布されたと。セントラルステーションのニューヨークらしいスタンスだ。


 日本の報道サイドとしては、連動して怪しい噂が流れていた。どうにも神奈川県小田原市の親族と連絡が取れにくいの一報が寄せられる。この神奈川県大停電から、キャリアにも影響が出ようかで、留め置くだけにされた。

 いや、この神奈川県大停電だからこその、フェイクニュースも流れた。その先が小田原市なのに密林が延々広がる映像だ。

 映像作成なら人力及びAIによるお手の物のありがちな映像なので、報告者は徐々に規制対象として弾かれ、今となっては真実の映像は見受けられなくなった。

 そのあおりから、正しい報道をしようと、大手紙福陽新聞の俺三枝桂樹が特派員として、可愛い息子と巨乳妻を残して、小田原市に向けて派遣される事になる。


 このニューヨークの報道番組発の神奈川県大停電は、何を小洒落たたか、レディ・バニッシュと呼ばれる。

 米海軍横須賀基地の将校ジョージ・アクィナスの恋人来栖美樹は、小田原市名店の一元蕎麦の一人娘でも有り。ジョージ助けて暗いの通話から、在留アメリカに特務命令が下ったらしい。

 レディ・バニッシュの憶測としては、日本のインフラ設備の大老朽化、極市民団体によるテロ、諸外国工作員の扇動、或いは諸外国のステルス巡航ミサイルになる。半日掛かっても回復しない事から、パブリックエネミーを想定せざる得ないのは、同盟国としては当然の事だ。


 日本国の内閣府は、相変わらずのおっとり刀であり、俺達デスクは、仮眠を挟みながらアメリカ関連発のニュースに注視していたところに、翌朝7時に緊急朝礼が行われた。

 やれ編集長の残業アンリミテッド発令かと、皆が溜め息を付きながら集まると、コミュニティーモニターには、若そうに見えるが冷静に見ると、40歳前半そのままに見える男性が立ち姿で微動だにもしない。

 字幕には防衛省レディ・バニッシュ調査委員会専任次長御厨比佐志。見るからに曲者かだ。


 その曲者御厨は、いかに内閣府は冷静で沈着冷静に趨勢を見つめていると述べる。節々で格好付けているが、内閣府の定番対応のそれがどうしたかだ。

 御厨はそれを察したか、10時の内閣府会見の前に、事前プレスリリースをすると、ワイプが切り替わる。


 メイン画面には、時系列での映像が流れ、首都圏の混乱が具に見える。そして衝撃映像として、日の入り夕方前の小田原市の映像が流れると、たださざめいて行く。

 小田原市は小規模でも街並みがくっきり有る筈だが、字幕が何を勘違いしたか、密林でも神奈川県小田原市と表示する。俺たちデスクの大凡は、諸外国のステルス巡航ミサイルが威嚇として小田原市を焦土にした筈が、余りの真逆で声を無くす。何がどうしてかだ、

 皆の目が瞬いた頃に、深夜の小田原市索敵映像に代わりに、状況説明に移る。移動中、野犬の残影が見えるが、シンニホンオオカミだと。あの嘶きは、シンニホントラだと。おいおい、日本にそんな物騒な猛禽類いるかと、堪らず談笑になったが、その次が問題だった。

 立派過ぎる100mの百年杉が、漸くチェンソーで切られ倒れるが、その大きさそのままの年輪が信じ難いものだった。推定300年。小田原市は都市だ、焦土ならまだしも、やはり密林で有る筈も無い。それならば、SFで言うところの空間転移。一体何処と何処が。御厨は繫ぐ。


「早期の状況終了を図ります。日米同盟は全力を尽くすも、民間にも大きく活躍を願っています。つきましては、横浜の蓄電施設のある状況協力ホテルを確保し、前線基地を用意しましたので、これをご覧の有志の方には、どうか駆けつけて頂きたい。質問は、手短に3つにしましょう。どうか率直に手を挙げた貰えないですか」


 俺はごく自然に手を挙げ、御厨が満面の笑みで、界隈の手堅いエース三枝さん、よくも俺の名前を知ってか促す。


「御厨専任次長。映像は直近で今朝6時迄が編集されています。この密林は甚だ謎ですが、このカンファレンスで聞いた、小田原市の昼間の人口16万8千人は1人足りとも発見されていません。防衛省の人命救護活動は如何な状況ですか」

「皆さん、ここからが更なる混迷です。これは絶対公開出来ませんので、どうか心して下さい。そして、個人情報保護は遵守しますが、小田原市に住む通信情報をキャリアさんに提出して貰いました。その133名の内容を、字幕に置き換えて表示します」


 画面は細長く細かく144画面に分割され、通信同士名と通信同士場所位置とタイムスタンプが表示される。そうスライドして行くと、会話内容から行方不明の昼間小田原市民であろうが、最低でも133名は生きている。ただ、通信元の小田原市がアンノウンと表示される。何故なのか。

 つまりと御厨がことば少なげに推察する。小田原市は異空間と交差し交換されるが、目下の筋立て。しかし、人間の構造の摂理から、肉体は分離し、精神だけが現在も密林小田原市に留まっている可能性が高い。つまり臨死の状態で一刻の猶予も許されないだろうと。


 消えない存在。そんな事受け入られる筈もなく、俺は真っ先に手を挙げる。小田原市行かせてくださいと。皆は俺に振り向き、三枝の勇猛果敢ならそうだろうと、丁寧に頷かれる。

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