第13話 即席【魔改造】

「いいぞ。ヘニー」


「はい、領主様、ていや!」


 ヘニーの弓が、オークを仕留める。


「冒険中に『領主様』は、やめてくれ。同じ仲間なんだから、ディータでいい」


 仕事を思い出すからだ。


「はいディータ様」


「様はいらんのに」


 まあいいか。ここで下手に問答しても、ドワーフ救出が遅れるだけだ。


「それにしても、恐るべきは【チェイスファイア】の能力だな」


 兜で頭を覆っていても、矢に仕込んだ炎魔法が頭を貫通するのである。ヘニーはその効果で、オークの脳を焼くのだ。


「ですが、ゴーレムなどには通用しません。絶対的な火力は、リユ奥様に比べたらまだまだですね」


 こちらとしては、ヘニーに火力なんて求めていない。小柄な身体を生かしたフットワークこそ、彼女の武器だろう。


 とはいえ、本人はリユ並みのバ火力をご所望だ。


「リユは特別だぞ。参考にならん」


「ほうじゃ。この剣だって、ちょっとした【魔改造】でちょっくらいじってもらっておるからのう」


 ゴツゴツしたデザインの剣を、リユがヘニーに見せる。アラクネと戦ったときより、金属質を増やしていた。


 とはいえ、僕は装備品開発の専門家ではない。こういうのは、やはりドワーフの出番だろう。彼らの発想力さえあれば、きっといい武装が手に入るに違いない。ドワーフを助けたら、武器開発班にも数名回そうっと。


「正確さでいえばファミリアで事足ります。わたし個人の火力がなければ、ディータ様を助けることが……きゃあ!」


 強力なファイアーボールが地面に着弾し、ヘニーの近くにあった岩の突起を吹き飛ばす。


「気をつけぇよ! あやつ、【ピットフィーンド】じゃ!」


 リユが、僕とヘニーをかばうように前へ。


 現れたのは、ヤギのような二本角を持つ橙色の魔族だった。言葉は発しないが、明らかにこちらを敵視している。


 手から、ピットフィーンドがファイアーボールを放つ。


「しゃらくせえ!」


 ピットフィーンドが投げつけた火球を、リユが剣で撃ち落とした。


「お返しです。チェイスファイア!」


 ヘニーが、魔族に矢を放つ。


 矢はピットフィーンドの眉間や心臓に、的確に命中した。これ以上ないほど。


 だが、魔族はビクともしない。


「魔族は不死身か?」


「死なないんやない。命自体がないんじゃ」


 この魔族は、いわば眷属だ。何者かが操っているのだろう。


「やつの魔力を上回る、武器があればええんじゃが」


 さらに悪いことに、もう五体現れた。


 リユが二体倒すも、まだわらわらと出てくる。


「わかった。今から作る!」


 これだけの相手に、リユだけではきつすぎだ。


「これまで落ちた装備は?」


「魔法の杖が多いです! あ、ピットフィーンドが強めの弓を落としました。使えますか?」


「くそ。だったらありったけくれ! 全部、魔改造してやる!」


 僕は魔改造で、魔法の杖とヘニーの弓、魔族がドロップした武器を全部融合した。


 装備作りは専門家じゃない、っていっているだろ!


「ほら、【魔杖弓】だ!」


 魔法の杖と弓を融合させた武器だ。矢を使わず、魔力を直接撃つ。


 こんな即席武器が、使い物になるとは思えな……。


「チェイスマジックミサイル!」


 まったく違う属性の矢を、ヘニーが魔杖弓で四方八方へ放つ。


 矢は複雑な軌道を描き、ピットフィーンドの心臓を正確に撃ち抜く。


「えええええ!?」


 あっというまに、ピットフィーンドの群れが消滅する。


「とんでもないな、我らが誇るスカウトは」


「えへへ。あっ、ディータ様」


 魔改造の影響だろうか、僕は眠くなった。


「なに、いつものことだ、よ」


「ムリするなや。アタシらが守ってあげるけん、寝ておれ」


「そうはいかないよ。ドワーフが、捕まっているんだ」


 眠気と戦いながら、僕は立ち上がろうとする。しかし、またヒザをついてしまった。


「ヒーリング」


 ヘニーが、体力を回復させる魔法を僕にかける。


 あれだけひどかった眠気が、一気に吹っ飛んだ。


「おお。こんなに清々しい気持ちになったのは、初めてだよ」


「よかったです」


 役に立てて、ヘニーもうれしそうだ。


「すげえのう、ありがとうな、ヘニー」


「いえ。それより、これだけのピットフィーンドを、大量に」


「ああ。敵は相当腕の立つ魔族だ。とんでもないぞ」

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