第14話 デモサー《グレーター・デーモン・サークル》の姫

 次に襲ってきたのは、スケルトンの大群である。


「ディータ、キリがねえわい!」


 剣でスケルトンを砕きながら、リユがうんざりした口調になった。火炎魔法を付与した斬撃を繰り出して、まとめてスケルトンを払っている。だが、数が減る気配がない。


 ヘニーの精密射撃も、この数では効率が悪い。


「どこかで、誰かが操っている気配もないか?」


「ありません。物量で押し込んできているだけですね」


 まとめて破壊するしか、手がないわけか。


「しゃらくせえの!」


 とうとう拳まで振り上げて、リユがやけくそでスケルトンを蹴散らす。


「スケルトンキングやらリッチやらがおったら、そいつを始末すれば勝てそうじゃが」


「いや。一箇所にまとめよう」


 ひとまず、僕たちは退散した。


「コイツらは一体一体殺すより、まとめて浄化したほうが早い」


 かといって爆発魔法で吹き飛ばせば、ダンジョンが崩れる可能性がある。


 まだドワーフがいる以上、被害は出せない。


「一箇所に集めたぞ!」


「どうするんです?」


 リユとヘニーが協力して、スケルトンたちを玄室に閉じ込めた。


「よし、みんな逃げろ!」


 僕が盾になって、リユとヘニーを玄室から逃がす。


「ここなら。【魔改造】!」


 背中に、幻の腕が召喚された。


「火炎魔法・土魔法を融合。くらえ。【マグマダイバー】!」


 スケルトンを前に、僕は地面にパンチを叩き込む。


 土魔法と炎魔法を混ぜ合わせて、マグマのプールを作った。


 逃げ場を失ったスケルトンたちが、マグマへと落ちていく。


「すごいのう!」


 魔法の威力に、リユが僕を称賛してくれた。


 といっても、スケルトンを焼いたら消える程度の持続時間しかないが。




「ほんとすごーい。よくも邪魔してくれたわねー」




 背後から、女性の声が。


「!?」


 僕たちは振り返る。


「シンクレーグの領主サマって、ほんとムカつく。なんでウチらのプロジェクトをぶっ壊すのかなー?」


 氷のように白い肌を持つ女性が、ガイコツでできた四足歩行獣の背に乗って現れた。背中に取り付けてある玉座も、すべて骨でできている。

 女性の目は赤く、肌も髪も白い。凍ったゾンビのような姿だ。おそらく、彼女はもう人間ではない。


 声をかけられるまで、気配がわからなかった。


「てめえが、ドワーフを使ってこのダンジョンを作っとるボスか?」


「そうよ。ウチは南東ピドーのペカディア・デフト王女」


 リユからの問いかけに、ペカディア王女が答える。肌もそうだが、受け答えまで氷のように冷たい。


 やはり魔族と南東諸国は、繋がっていたか。もう隠そうともしていない。


「ピドーって、どんな国じゃ?」


「あちこちに戦争をふっかけている、過激派国家だよ。自分たちが優秀だと信じて疑っていない」


 北東のカイムーン国と、南バリナン王国に挟まれた国である。

 小国でありながら、軍事産業が盛んだ。

 自国を挟み込む両国の境目がなくなれば海が手に入るため、血の気が多い。


 カイムーンに攻め込もうとしているのも、ピドーである。


「じゃけん、シンクレーグは半島じゃ。ピドーとえらい離れておろう?」


 そこの謎は、まだわからない。


「ピドーと魔族をつなぐルートが、どこかにあるはずだ」


 シンクレーグ半島を潰せば、海賊も攻め込める。


「ごちゃごちゃ言ってないで死にな! グレーターデーモン!」


 三メートル近い毛むくじゃらの球体が三個、ペカディア姫の呼びかけに応えた。


 卵の形をした巨大な球体から、長い腕と短い足が生えてくる。


「ペカたんを守るのだ」

「ペカたんを傷つけるやつは許さないのだ」

「初見は帰れなのだ」


 巨大毛玉は、まるまると太った、ビール腹の一つ目デーモンへと姿を変えた。


「なんじゃ、コイツらは。グレーターデーモンやないか」


「デモサーの姫とは」


 グレーター・デーモンサークルの姫って意味だ。


「ほいじゃあ、あのメスも……」


「間違いない」


 ペカディアも、グレーター・デーモンだろう。

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